私と子どもと雪兔









「この美しいフォルム……完璧だ。」



久々に作ったそれ。自分でも惚れ惚れしてしまう出来に満足していたのに、それに抗議をする者がいる。
この美しさがわからないとは……これだから子どもは。

「中尉に頼まれて呼びに来れば……大佐、なんなの?それ。独りで雪遊びしてないで仕事戻れよ。」


鋼のだ。
目を向ければ一面、雪に覆われた真っ白な世界で彼の金色は眩しいくらいに輝いている。


彼はしかめっ面で私の手の上にある芸術品と言っても過言ではない雪兎を凝視していた。


「見てわかるだろうに?」


「わからないから聞いてんだよ!」



ああ、もしかしたら今の子は雪兎を作らないのかもしれないな。だからわからなかったのか。


「鋼の、雪兎だよ。」


一瞬ぽかんとした鋼のだが、次の瞬間、小さな口(彼はどこもかしこも小さいが。)をめいいっぱい開けて笑だした。



「ハハハ……!真面目な顔して何してんのかと思ったら雪兎?すごい下手くそだし……!」


「君は失礼だね。」



腹を抱えて笑い続ける鋼のを見下ろす。よっぽど私の自信作、雪兔がつぼに入ったのか。まったく、失礼な子どもだ。

「ハハ、……フフフ!あー、笑い死ぬかと思った。……久々だな。こんなに笑ったの。」


ようやく笑いやんだ鋼のは、ぽつりとそんなことを言ったから私は抗議をする気が失せてしまった。その顔がどこか遠くを見つめ、一瞬悲しそうに歪められたのは気のせいだろうか。


「……俺の村、冬になるとさ沢山雪が降って……よくアルとウィンリィと雪兔作って遊んだな。下手くそなんだけど母さんは、上手だって誉めてくれて……。」


もう、失ってしまった幸せな日々が愛しくてたまらないのだろう。この子どもは。


「……あー、今の独り言。だから気にしないで。これ、報告書。じゃ、またな。」


笑い過ぎて調子おかしくなったななんて苦笑しながら鋼のは私に背を向ける。


その背中がひどく頼り気が無く見えて。
雪の上に刻まれていく彼の足跡がひどく小さく見えて。
真っ白な世界に冷たく輝く、金色が美しくて。
私は、たまらなくなって鋼のを抱き締めた。


「な、なんだよ!おっさん!」
「なんでだろうな?こっちが聞きたい……。」


これが憐れみなのか、はたまた恋の芽生えなのか。
そんなことは後で考えれば良い。






end







リゼ