29歳会社と癒し、その昼休み










「課長、飯買いに行きます?」
「……いや、私は弁当があるから。」
そういって鞄からおもむろに弁当箱を取り出すと、部下はひどく驚いた様子で目を見開いた。
「まさか、課長の手作りじゃないっすよね?」
「残念ながら違うなぁ。ハボック。」
にやりと笑いながら言ってみせるとハボックはこの万年モテ期めと恨み事を呟いて見せた。
「わざわざ俺に彼女の愛情たっぷーりな弁当を見せ付けないでくださいよ。あーテンション下がる。テンション下がり過ぎて仕事出来そうにないんで早退させてください。」
それはふざけた口調だったがハボックのたれ目は据わっていた。ああ、そうだ。今朝、振られたと話していたな。
「いや、すまなかった。ハボック。お詫びにお前の台無しになってしまったテンションとやらを上げてやろう。」
弁当箱を包む水色のハンカチをほどけば、出てきたのは丸い弁当箱とカードが一枚。
それを見たハボックは傷心中の部下になんの嫌がらせっすか等と呟いた様な気がしたが私はそのカードに夢中で、生憎気が付かなかった。
少し癖のある字で書かれたカード。
「ロイさん、仕事頑張って。エドワード……!」
なんだこの子は!可愛いなぁ!
「エドワード……って男?」
カードを握りしめ可愛いらしい同居人の姿を思い浮かべる私をハボックが無遠慮にじろじろと見つめる。
「彼女、じゃないんですか?」
「ん?セントラル大学に通うために私の部屋で居候している15歳男の子でね。」
そう言えば部下達に話していなかったな。まぁ、良い。カードをそっと胸ポケットにしまうと、いよいよ弁当箱の蓋に手を掛ける。
「……なんだか随分、可愛らしい弁当っすね。」
それがハボックの感想。
「エドワード!ブラボー!素晴らしい!」
これが私の魂の叫び。
改めて弁当をじっと見つめる。
たこさんウィンナーに星形のハンバーグ。ウズラで作ったひよこ、彩りよく添えられた野菜……そしてご飯の上にはのりたま!可愛いなぁ……可愛い子が作る弁当は可愛いんだなぁ!
食べるのは勿体ないが、手を着けずに帰るのはその何万倍勿体ない。
「ああ、美味い。……癒されるなぁ。」
「あの、課長。本当にただの同居人なんすか?」
この昼休みの後、何故か部下達の間で私がショタコンであるとの噂が広がった。









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リゼ