ミ ディスピィアーチェ











絶対に見られてる。
この部屋に入ってからずっと、上司から視線を感じる。
なんだって俺をそんなにも見つめるんだ。
そう、上司の机には沢山の書類が積み重ねられていた。報告書をさっさと読めと要求した俺に、忙しいから待っていろと言ったじゃないか。もしかして俺の自意識過剰?
「……うわ……」
然り気無い動作で顔を上げて窓の外を見るフリをする。視界の端に捉えた上司は、残念ながらこちらを見ていた。しかも器用な事にペンを走らせながら。
なぜ、俺をそんなにも見つめる。寝癖が付いていたかな。この前、チビって言いやがった酔っぱらいをちょこっとボコッたのがばれたのかもしれない。いやいや、もしかしたらハボック少尉と雨の日は無能と陰口を叩いたのがいけなかったのか。
「鋼の、」
「うぉ!大佐、あ、すんませんでしたっ!」
突然、声を掛けられて慌てた俺に大佐は首を傾げた。
「何を謝っているんだ?」
「へ……?うん、なんでも……無いぜ?」
どうやら大佐の怒りをかって睨み付けられていた訳では無いらしい。
大佐はペンを置くと俺の目の前までやってきた。その瞳は相変わらず俺を熱心に見つめている。
「なんでしょーか?」
言いたい事があるなら言ってくれ。
「ちょっと立ち上がってくれないか?」
「なんで?」
「いいから。」
手を引かれ立たされる。
大佐は俺を下から上までじっくりと視線を這わせると、呟いた。
「鋼の、背が伸びたな。」
「マジで?」
「ああ、前は私のこのあたりまでしかなかった。」
そう言って大佐が示したのは鳩尾。今は大佐の胸板位まで背がある。数センチ、伸びたみたいだ。
少し遅れた成長期の到来かもしれないと気分が舞い上がった俺とは対照的に、大佐の表情は暗い。
「んだよ?かわいー部下の身長が伸びたんだぜ?」
「……ああ。可愛い部下の身長が伸びてしまったな。」
何故だか残念そうに溜め息を吐く大佐に、今度は俺が首を傾げる番だった。












end




リゼ