小さな世界(ロイ+エド)











「エドー、アルー、またあした!」
「ばいばい!」
「またね!」
夕焼け空の下、大きく大きく手を振る。
幼馴染みに背を向け弟と二人で帰る道。ぐうぐう鳴くお腹に、今日の夕飯はなんだろうと顔を見合わせて。漂ってきたシチューの美味しい匂いに顔を挙げれば母さんが庭から手を振っていた。
「ただいま!」
「母さんただいま!」
二人して抱きつくと、母さんのエプロンから石鹸の甘い香り。
「エド、アル。おかえりなさい。」
暖かな笑顔。俺たちの頭を撫でる、優しい手。
「フフフ、今日の夕飯はシチューよ。早く手を洗って来なさいね。」
俺たちはこれだけで幸せだった。リゼンブール、幼馴染み、そして母さん……この小さな世界は幸せと大好きで溢れていた。
「鋼の?」
「……んだよ!びっくりした!」
直ぐ目の前に迫っていた上司の顔に心臓が停まるんじゃないかってぐらい驚かされる。
「ああ、君があまりにも情けない顔をして寝てたから。」
そう言って大佐は俺の頬をそっと撫でた。
その指を濡らす雫に気が付いた俺は慌てて目元を拭い、立ち上がる。
「アレだ……牛乳を無理矢理飲まされる夢を見たんだ。」
「そうか。牛乳を無理矢理飲まされる夢、か。」
背を向けた俺を深く追及せず、大佐は自分の席に戻ったようだ。
二人きりの部屋に書類を捲る音だけが響く。
窓から差し込む陽は橙。夢の中の夕焼け空が頭を過った。俺はすることも無いので再びソファーに座り、瞳を閉じる。
もう一度、あの幸せな夢が見たいなと思って。
「鋼の、終わったぞ。」
「残念……」
ぽつりと溢れた言葉に大佐が首を傾げた。
「鋼の……大丈夫か?」
「アンタがそんな言葉掛けてくれるなんて、天変地異の前触れ?」わざと茶化すように言ってみるが大佐は真剣に俺を見つめている。
「……ちょっとさ、幸せな夢を見たんだ。」
「幸せか。」
「そ。幸せ。なぁ大佐、アンタにとっての幸せって何?」
俺も真剣に大佐を見つめた。だってその黒い瞳は、母さんとアルと一緒に見上げたリゼンブールの星空に似て優しかったから。
「君が笑顔でいることだ。」
「俺限定?」
「ああ。一先ずはな。しおらしい君など、見ていて胃がムカつきそうだからな。」
「一先ずにしてもアンタにとっての幸せって、随分狭いなぁ。」
冗談も交えているのだろうが、どこか俺と考えが似ていて思わず笑みが溢れる。
「俺、大佐のこと好きになった。」









end







リゼ