昨日までの現実は、

※パラレル







──キンコンカンコン、
気の抜ける、古典的なチャイムの音に生徒達はシャーペンを机に置き、教師は教科書を閉じる。
「昼休みだな。お前ら早く購買行かないとパンが売りきれるぞ。っーことで解散。」
そう言って誰よりも早く教室から駆け出したのはエドワード・エルリック、歴史の教師だ。なんともいい加減な授業の締めくくりにどこからともなく笑い声がもれた。
「おい、ロイ。今日は学食?購買行くか?」
「学食のカレーが俺を呼んでいる気がする。ノート取ってるから先に行っててくれ。」
「はいよー。ロイちゃんは真面目だなぁ。親友との楽しい昼休みがちぢまっちまうぜ?」
ふざけるマースを追い払うと、黒板を見上げる。
少し癖があるが読みやすい字がびっしり……いや、黒板の上部以外はびっしり記されている。
あの空白はエルリック先生の低めな身長のせいだろうな。
「今から500年前か……」
どうやらその頃は、今では考えられないことにこの国は軍事国家で、内戦に溢れ、そして何より錬金術とやらが国を支え、発展させていたらしい。
黒板にはアメストリアス41代大総統キング・ブラッドレイの名と、国家錬金術士、イシュバール内戦の説明。
「錬金術士が兵士……火の玉でも出すとか?まったく錬金術なんておとぎ話だな。」
「お、マスタング。熱心だなぁ。」
ノートにふっと影が落ちて、顔を上げれば二対の金が俺を見つめていた。
「……エルリック先生。購買にダッシュしたんじゃないんですか?」
「残念ながら教科書とノート忘れちゃってさ。」
随分、盛大な忘れ物に思わず口角を上げてしまう。
「あーあー、ヤな笑い方。」
「女子はこの顔にきゃーきゃー言ってくれますけど。」
「おまけに言うことまでヤな感じ。もてない男への嫌みかね?マスタング君。」
「別に嫌みな……あれ?」
なんだろう。この感じは。
初めてだ。担任でもないエルリック先生と話したのは初めてなのに……
「懐かしい……。」
呆然と呟いた俺に先生はにっこり微笑むとぐっと顔を近づけた。
目の前できらきらと輝く金髪に触れたいのは何故だろうか。
「さっき、錬金術なんておとぎ話だなんて言っただろ?」
目の前で言葉をつむぐ唇にキスしたいのは何故だろうか。
「お前がそう言うの、なんか悲しい。」
そう言うと先生はパンッ……と両手を合わせた。
青白い光がその手を包み、現れたのは小さな花飾り。
「え、先生?」
「手品なんかと一緒にすんなよ?……消しゴムで作ったから出来はイマイチだけどさ。」
そう言って先生はニヤリと笑うと、呆然とする俺を置き去りにして駆け出した。
「うぉー!マスタングに構ってたせいでパンが売りきれる!」
目の前には先生が作り出した小さな花飾り。教科書の上に置かれたそれに手を伸ばして気が付いた。開かれたページに記されているのは俺と同じ名の大総統と、エルリック先生と同じ名の国家錬金術士。
俺はポケットにそっと花をしまうと駆け出した。
偶然なんだろうか。
きっと偶然なんかじゃない。
先生はきっと知っている。
「エルリック先生!」






end






リゼ