馴れないことは、するべきではない







今日は上司に落ち着きが無い。
先ほどから時計を眺めてはそわそわと視線をさ迷わせたり、顎に手をあて何か考えこむ素振りを見せる。
ホークアイの我慢は限界だった。次から次へと書類が積み重なるのを目の前にしながら上司が仕事をしないからだ。
こんなにも堂々と仕事をさぼるとは流石大佐、良い度胸をしているとホークアイの手が銃に伸ばされる。
「……中尉。」
「なんですか大佐。ようやく仕事をする気が起きましたか?」
いつの間にやら目の前に突きつけられていた部下の銃。しかも安全装置は外されている。ロイは一瞬、驚きに目を見開いた後、ひきつった笑みを浮かべ両手を上げて見せた。
「す、すまない。仕事に取りかかるよ。」
「当然のことです。」
ホークアイは上司がペンに手を伸ばしたのを見届け、ようやく銃をしまう。
ロイはほっと息を吐くが、まだまだホークアイの目は冷たい。視線で射殺されるのではないかと思うほど冷たかった。
しかし、ふと彼女が優しく微笑むことを思い出した。そう、子ども達二人が司令部を訪れる度、薄茶の目を柔らかく細め微笑む。
「中尉、相談があるのだが。」
彼女なら力になってくれるだろうとロイは確信して声を掛ける。
「聞けば仕事が捗りますか?私が答えられる範囲でしたら力になります。」
実に彼女らしい返答。ロイは思わず笑みを溢す。
「子どもへのプレゼントは何が良いかと思ってな。」
意外な悩みにホークアイも思わず笑みを溢した。
「エリシアちゃんにですか?でしたらぬいぐるみや絵本なんていかがです?」
可愛らしい少女を思い出しながらそう答えると、ロイは緩く首を振る。
「いや、その……13歳の男の子なんだかね、」
「もしかしてエドワード君?」
そう言えば今日、司令部を訪ねると連絡が来ていた。
エドワードの身長は少しでも伸びただろうか、アルフォンスは相変わらず丁寧な子だろうか。金と銀の子ども達がじゃれあう姿を思い浮かべる。早速、お茶とおやつでも用意しなければ。
「中尉、聞いているか?」
「急用が出来ましたので失礼します。そうですね……あの子は旅をしているのですから荷物にならないものがいいのでは?」
そう言うと、ホークアイはさっさと退室してしまった。もちろん、お茶とお菓子を用意するためにだ。
「荷物にならないもの……か。」ホークアイや部下達の様に素直にエドワードを可愛がることが出来ないロイは頭を抱え込んだ。
せめて何かちょっとした贈り物で笑顔を拝めたら、そう思ったのに。
「うーん、荷物にならないもの。」
数時間後、悩んだ挙げ句に何故か指輪を用意してしまったロイは、誤解したホークアイとアルフォンスに地獄を見せられることになる。








end







リゼ