チョコケーキ



報告書を届けに来た子どもは相変わらずの仏頂面で。
たまには弟に向ける柔らかな笑みを私に向けてくれてもいいのにと思い苦笑した。
「大佐、なに笑ってんだよ?」
「いや、別に。」
「出来るだけ早く読んでくれよ。俺、忙しいの。」
「私だって忙しいさ。やらなければならない仕事が山ほどあるからね。」
可愛らしいさが無い言葉につい、意地悪く返せばエドワードは眉間にシワを寄せた。
「……あーもー、スミマセンネ。」
「書類を片付け次第、読むからケーキでも食べて待ってなさい。」
ソファーの前に置かれたテーブルの上にある菓子を指すと、エドワードの不機嫌だった表情が明るくなる。
「仕方ねえな。」
言葉だけは不機嫌なままソファーにそそくさと移動するが、顔はケーキを見つめて何とも嬉しそうだ。「あ、チョコケーキ!シュークリームもあるじゃん。」
小皿に盛られた菓子を見てエドワードが嬉しそうに呟いた。
「いただきまーす。」
行儀良く挨拶をして、ケーキを頬張る姿はなんとも愛らしい。
普段はつり上がっている瞳が幸せに弧を描いて、柔らかそうな頬が子どもらしく微笑む。
自分に向けられれば一番幸せだろうが、こっそりとそれを伺い見るだけでも十分幸せだ。
「さて、さっさと片付けるか……」
可愛らしい光景に少しばかり癒されて書類の山へと視線を移すと、仕事に取りかかる。
「なぁ大佐。このケーキすっごい旨いよ。ありがとう。」
いつの間にか目の前にやって来ていたエドワードがケーキが乗った皿を大事に抱えながら私に微笑みかけた。
「へ?」
音に表すならフワリ、そんな可愛らしい笑みを初めて向けられて私の頭の中は真っ白だ。
「ほら、」
そう言って差し出したフォークの先には一口分に切られたチョコケーキ。
「ほら口開けろよ?あーん。」
「……」
開けた口にチョコケーキが放り込まれる。
「旨いな。」
「だろ?」
フォークを片手に微笑む子どもにこれは幸せな夢では無いかと思った。
だが口内に広がるチョコレートの甘い香りと、柔らかなスポンジの食感がこれは夢では無いと言っている。



end


ロイ→エドみたいだけど、実はロイ→←エド




リゼ