ファマーレ


駅から徒歩12分。
閑静な住宅街と大学の手前に立つコンビニは立地上そこそこ繁盛している。
安っぽい蛍光灯が照らす店内と、入り口に掲げられた中華饅割引セールのポスターにエドワードは吸い込まれる様に入っていった。
「いらっしゃいませ─」
お決まりの文句に特に反応もせず雑誌コーナーへと向かう。
いつもなら学生やサラリーマンで溢れているそこも、夜も更けた今は人も疎らだ。
ニヤニヤと成人向け雑誌を読む中年を睨み付けると、週刊のマンガ雑誌を手に取った。
「なんだよ。今週号は休載かよ。」
溜め息を吐くとレジに向かう。
「ええっと……肉まんひと、いやアルにも買ってってやろ。お兄さんやっぱ肉まん二つね。」
「はい。肉まん二つですね?」
確認されて、エドワードは顔を向けた。
「あ、はい。」
コンビニの安っぽい制服がまるで似合わない男が自分に向かって微笑んでいる。
真っ黒な髪と瞳に、優しげな顔立ち、鼓膜を振るわせる低い声にエドワードは見惚れた。
今まで何回か利用したが、こんなにかっこいいバイトはいただろうかと首
を捻りながらも目で追ってしまう。
しなやかな指がトングを操り、蒸し器の中から肉まんを二つ取りだし袋に詰める動作が無駄にかっこいい。
「200円になります。」
キラキラと周囲が光って見える微笑みが自分に向けられている。
「200円ですがよろしいですか?」
「うっわ!?は、はい!」
見惚れてぼうっとしていたエドワードにクスクスと店員が笑い。
「そんなに見つめないでくれないかな。」
「あの、いや、すみません!」
慌てて200円をレジに叩きつけ羞恥で真っ赤に染まった頬を隠すように店内を飛び出した。
街灯が照らす、秋の肌寒い夜道をしばらく走ってから気が付く。
「……肉まん忘れた。あーもー!取りに戻るのもな……」
なんだか自分の馬鹿らしさに疲れて座り込む。
「寒いな……」
「おーい、そこの君!」
たぶん自分を呼んでいるであろう声。顔をあげれば遠くから掛けて来る男が目に入った。
「え、なんで?」
手に袋がぶら下がっている。
「まさか、」
「そう。肉まん、お忘れですよ。早く帰らないと補導されてしまうよ?可愛いらしいお嬢さん。」
ニコリと笑いまだ温かい袋を渡すと男はエドワードに背を向けて歩き出した。
その姿が見えなくなるまで呆然と見送ったエドワードは、ふと気が付く。「俺は19歳だしおんなじゃねぇ!」
小柄で本人は認めないが可愛らしい顔をしたエドワードは見事に勘違いされ、男が去った方向に向かって叫んだ。
「……ムカつく。でもかっこよかったなぁ……」


end


リゼ