隣の席の和泉くん!

今日は絶対に私の席の周りは女の子でいっぱいなんだろうなと想像していた。正直想像だけでもうんざりだ。教室に入るのもだるい。理由はそう。私の隣の席の和泉一織くん。彼は文武両道な模範的な生徒で学校生活だけでなく、最近巷で話題の「IDORISH7」のメンバーなのだとか。(詳しくは知らん)そんなパーフェクトな男をアイドル大好き女子高生共が放っておくわけもない。きっと今頃奴の机は女の子たちからもらったプレゼントでいっぱいなのだ。だが気を付けろ和泉くん。女子は怖い。最近は手作りのクッキーに自分の血を入れて作るメンへらまでいるらしい。それは人間として引くけども。モラル的にどうなわけ。

学校についてしまい、あー嫌だなー絶対群がってんだろうなーとか思いながら教室に入ればいつもの光景が広がる。そして自分の席まで行けば眉間に皺寄せている和泉くんがわたしをちらっと見た。

「おはようございます。」


「あっ……うん……おはよう…」


「なんです、あなたは満足に挨拶もできないんですか。難儀ですね。」


「はぁ?とことん失礼だね和泉くん!おはようございます!!」


「うるさいです。」


そう私を一蹴にして読書を再開する。はぁん?こっちは最高の挨拶を提供してやったのにうるさいですの一言か!


「あー、あだなちゃん。おはよ。」


「おお、たまきん。おはよ!」


「その呼び方どーにかなんないわけ。」


「イントネーションが違うからばっちりさ!」


私の数少ない友人であるたまきんこと四葉環は和泉くんと同じメンバーであり、クラスメイトである。たまに吐く暴言は笑えないが、いいやつだ。


「和泉くんいつにも増して機嫌悪いけど、どうかしたの。」

「ああ、あのね。あだなちゃんが来る少し前にね、いおりんのたんじょーびプレゼント渡しに来た女子がいおりんに怒られて泣いちゃった。」


「マジかよ……だめだぞいおりん!女の子に優しくしなきゃ!」


「貴女までその呼び方やめてください。四葉さん。それは語弊があります。私は手作りのお菓子を持ってきた彼女に、一般人が作るお菓子の食中毒の恐ろしさを喚起しただけです。」


「何それめっちゃ怖い」

「だよな。」


「だったらどうしろと。仮にも体を壊せない人間が保証されていないお菓子を食べて食中毒にでもなったら。」


「でもちゃんとお礼は言わなきゃだめだよ、和泉くん」


そう私が言えば、和泉くんは少し恥ずかしそうな、なんとも複雑な顔をした。そこにたまきんが爆弾を投下する。


「あー。だからいおりん友達できないんじゃね?」

「なっ…?!」

「た、たまきん…?!」


おま、ちょ、それなんで言っちゃうんだ!!一番の地雷だから私だって言わなかったのに!!

「た、たまきん…!!」


少したまきん黙らせようとしたとき、和泉くんが小さな声でこう言った。


「わかってますよ、そんなこと……!」


はっきりと、たしかにそう聞こえたんだ。
誕生日は、誰かと笑って過ごせるから楽しいんだって、教えてあげたい。
私は少し深呼吸をして、和泉くんに言った。


「和泉くん。」


和泉くんからの反応はない。


「お誕生日おめでとう。」


すると和泉くんは驚いたように顔をあげた。


「早生まれっていいなぁ。だって同い年の人と付きあってても年ごまかせるじゃない?あ、なんで遅いのに早生まれって言うんだろう。」


「…何を言ってるんです、貴女。」


そう言って和泉くんが、ちょっとだけ、ちょっとだけだけど、笑ってくれた。


「和泉くんが……!」
「いおりんが……!」


「「笑った……!」」

「し、失礼ですね!私だって笑いますよ!」


「そーいえばあだなちゃん。たんじょーびプレゼントは?」


「ぬ、ぬかった…!忘れてたよ…!うわああここにきて腐れ盲点!どうしようたまきん!」


「ええ、購買のパンとかでいいんじゃね」


「そんな!」


「プレゼントなど気にしなくて結構ですよ。」


「あ!」


「なんです。」


「誕生日プレゼントは、私!」


そう言えば和泉くんは盛大にむせた。あんなにむせた和泉くんは初めて見るかもしれないってくらいむせてた。


「いおりんがむせたとこ、初めて見た。」


たまきんが見たことないのだったら、今世紀最大なのかもしれない。



「あ、ああなた!自分が何を言っているのかわかっているのですか!!」


「え、そんな怒る?」


「怒んなよいおりん。」


「怒らずにいられますか!あなたは前から節操がないと思っていましたがこれほどとは…」


「は?何言ってんの?私が友達になってあげるって意味なんだけど。」


「……は?」


「いやだから。」


「もういいです。」


「「は?」」


「金輪際私に近寄らないでください息もしないでください二酸化炭素を吸って酸素をはき出す練習をしてください」


耳まで真っ赤な顔を確認し、たまきんと二人で顔を見合わせる。

「……あれれ〜?和泉くんは何と間違えちゃったのかな〜?」


「何とも間違えてません去りなさい」


「席となりだから無理かな〜〜!!さあさあ白状しちゃえいおりん!」


「そうだいおりん!」


「だからその名で呼ばないでください!四葉さんも便乗しない!」


「いおり〜ん!」

「いおり〜ん!」


「うるさい……!」


今年はこんなうるさくてもいいよね?いおりんはぴば!!


20161025

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