愛してるよサファイア



「…というわけで、本日付で小鳥遊事務所の専属レッスン講師になりました。みょうじなまえです。この私が来たからには容赦はしないわよ。覚悟しなさい。」


「というわけでってどういうわけなんですか!!!」

訳が分からないとでもいうかのように和泉弟が啖呵を切った。あれから私の引退報道はすぐに世界を駆け巡った。いろんな人に衝撃を与えたのも事実だし、惜しいことをしたのかなとも思っている。

「えぇ…お兄さんには優しくしてよ。」


「問答無用ね。贔屓なんてするつもりは毛頭ないわよ。」


あのくそ男は二択を突き付けた。
彼を捨ててトップアーティストに君臨し続けるか、歌を捨てて彼と仲良しこよしで暮らしていくか。

そんなの、決まってるじゃない。
ミューフェスで彼の歌声を聞いたあの日から、



「うぅ…緊張してきた…。よ、よろしくお願いします!」



大和と出会えたあの日から、私は彼に恋してる。



「りっくん、肩の力抜けよ」



もし、和泉弟があの時失敗していなかったら。
あの時、スタジオのそばで歌っていた歌が聞こえなかったら。



「oh…ムチもいいですが、アメも期待していマス…」



私は大和に会えていなかったのかもしれない。



「どうしよう…僕まで緊張してきた。」



思い通りにならなくて、お互いが大事なのに素直になれなくて、遠ざけて。



「壮五もかよ!おいおい、しっかりしろよ!大丈夫だって!」



むしろ紆余曲折しかしてこなかったけど、それでもやっぱり大切で。
放したくなくて。




「おーい。ボーっとしてどうしたんだよ、お嬢さん。」


「…別に。和泉弟が失敗していなくても、私たちは出会ってただろうなと思っていただけよ。」


「なっ…!!なんですかそれ!」


「大きな舞台で失敗しないための私という要員よ。」


「もうあのような過ちは絶対に繰り返しません!!」


「はっはっは、打ち解けたようで何より。」



歌はどこででも歌える。その信念は揺るがない。
私はここで今までの幕を閉じ、新しい一幕を上げたのだった。




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