右手に大きな旗を持って




この前会った以来の恋人の開口一番は衝撃の一言だった。


「はぁ?!やめた?!」


《まだやめてないわよ。今度のドラマの主題歌を書きあげたらよ。》


「だから、やめるんだろ?」


《…まぁ、そうだけれど。》



何でもかんでも一人で済ませてしまう行動力ある最愛の彼女は反省の色ナシである。頭を抱えたい気分になる。(もう抱えている)彼女は八乙女事務所を辞めて小鳥遊プロダクションでレッスンティーチャーとして働きたいのだとか。これはとうとう彼女と俺だけの問題ではなくなる。八乙女事務所の主力であるなまえが引退し、それも八乙女が目の敵にしている小鳥遊プロダクションに入社するということは、つまりそういうことである。


「…はあ。」


《何よそのため息!》


「…今回のはお前ばかりの問題じゃないんだから、少しは俺に頼りなさいっての。」


《…、それは、わ、悪かったわよ…》


「こういう時なんて言うの?」


《…》


「なまえちゃん?」



《…っ、ご、ごめんなさい…っ!!》


「ハイよくできました。社長と万里さんには俺からも言っておくよ。」


《…、受け入れてもらえるかしら…》


「あー、ただでさえ人員きついらしいから、高給ふんだくってかなかったら大丈夫じゃね?」


《それは問題ないわ。私、低給料でも生きていける分にはおかね入ってるから。》


「うわー、ブルジョワ発言。」


《事実だもの。》



そう得意げに言うものの、やはり不安はぬぐえないのだろう。そりゃそうだ。腹を立てていたとはいえ、あの八乙女社長に不平不満その他腹の中で燻っていたもの諸々吐き出したというのだから、これから何が起こっても不思議ではない。でも我が彼女ながら天晴だ。


「なあ」


《なに?》


「これから寮来いよ。」


《はあ?!あんた何考えてんのよ!まだやめたわけじゃないのに…!》


「俺が会いたいだけ。」


電話越しに照れているのがわかる。あいつ、絶対顔真っ赤なんだろうな。


「なまえ、」



《!!…っ、ちょ、ちょっと会うだけだからね。私これから曲作るんだから。ちょっとだけなんだから!!》


「はいはい。」


じゃ、待ってる。そう言って電話を切った。

さて、まずは万里さんに相談だな。



(行動力ありすぎるのも、ほんと困りもんだな)

(そこが可愛いんだけども。)



20160208

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