和泉家の長女、天然につき【番外編】
「みっちゃん!!」

「姉ちゃん!またこんな遅くに来て…!一織に何言われても知らねぇぞ!」

「えー?」

「一織は今安静にしないといけねーの!」

「だから、おねーちゃんがきたんじゃないの!」

「一織にどやされる前に彼氏のところに帰ってくれ…!!」



姉ちゃんの突拍子もない行動は、昔からだ。

例えば、こんなことがあった。姉さんが小5、俺が小3、一織が5歳の時だ。学校から帰ってきてみれば一織が風邪をひいたと母さんに教えられ、「2人で遊んでなさい」と言われた時だ。姉ちゃんは俺の腕をつかみ、走って河原にある原っぱに連れだした。

【ねーちゃんどうしたんだよ。】

【…、】

【ねーちゃん?】

姉ちゃんは返事もせずに、黙々と草の根を分けるように何かを探していた。

【…何探してんの?】

【よつばのクローバー!】

【…クローバー?】

【そう!四つの葉っぱのクローバーは幸せを運んでくれるんだって!見つけて、いーちゃんにあげたらきっと治る!】

【治るのか…。でも、きっと探すの難しいよな。】

【そんなことない!みっちゃんと私と、2人なら見つかるよ!】


探そう!と目を輝かせて俺に訴えかけた。姉の強引な願いはあっけなく叶えられ、俺は姉ちゃんと日が暮れるまで四葉のクローバーを探し続けた。

【ねーちゃん、そろそろ帰ろうぜ…。】

【えー?もーちょっと!】

【えーじゃねぇよ!ぜったい見つからないって…!】


【みつかるもん!ぜったいあるもん!】

姉ちゃんはその場から動こうとしなかった。お腹もすいたし、家に帰りたかったけれど、姉ちゃんを置いては行けなかった。


【あっ…!みっちゃん!!みて!!】


姉ちゃんの白くて綺麗な手は土で汚れていた。その手には確かに、葉っぱが四つのクローバーが1つあったんだ。


【いっこだけだとさみしーから、お花も摘んでく!】


姉ちゃんは四つ葉のクローバーが寂しくないように、と、周りに咲いていた野花を摘んで、一緒に持って帰った。案の定姉ちゃんと俺は母さんと、熱がだいぶ引いたのか、部屋で待ち構えていた一織(なぜか泣いている)に説教をくらった。


【ねえさん!あ、れだけ遅い時間まであそんじゃ、だ、だめだといわれていたでしょ…っ、ふ、ええ!】

【んふふ、いーちゃん!】

【…っ、なに、?】

【これ!あげる!】

【…?】

【四つ葉のクローバー!みっちゃんと探したのよ!】


明日元気になるといいね!怒られていたのに笑顔でクローバーと野花のブーケを渡した姉ちゃんはなんと肝っ玉の据わっていることか。

【心配かけてごめんね、いーちゃん。】


【ふ、ええええええぇぇ…!!】


一織はブーケを握りしめながら姉ちゃんに抱き着いた。「みっちゃんも、ほら」といわれ、俺も姉ちゃんに抱き着く。「みっちゃん、一緒に探してくれてありがとう」と言われ、俺も何だか泣きそうになった。






「姉さん?!あなた、何やってるんですか?!」

「ほら、見つかった」

「あっ、いーちゃん!」

「いーちゃんじゃありませんよ何なんですか私の状態を悪化させるつもりですか!!」

「いーちゃん風邪ひいたって聞いたから!これ!」


姉ちゃんがカバンから取り出したのは、紙に包まれた四つ葉のクローバーと野花のブーケ。

「これ…」

「お家の近くでたまたま見つけたの!それでいーちゃんに持ってってあげようと思って!」

「…、!」

はい、どーぞ!と、小さな包みが姉ちゃんから一織に渡る。一織は何だか目が赤くなっていた。それは風邪の所為か、姉ちゃんとブーケの所為か、俺は黙っておくことにしよう。



和泉家の長女、天然につき



(…ま、まったく。しょうがない人ですね。)
(いーちゃん、昔これで治ってくれたじゃない!)
(昔は昔、今は今です。)
(…そのあと、俺に移ったけどな。)
(…えー?)




20151117

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