こらえ切れなかった大きな大きな涙
誰かがずっと私に話しかけている。
おれ、今日はちゃんと学校行ったんだ。
そっか、偉いね。
なまちゃんのねぼすけ。
環くん、泣いてるの?
「…た、まき…く」
「みょうじさん、目覚められたんですね!担当医を呼んできます!」
先生!先生!と看護師さんが担当の先生を呼ぶ声が聞こえる。窓からの強いほどの太陽の光で目がくらんだ。ふとラックに置いてあるカレンダーを見る。
「(…6日間も寝てたのか…。)」
こりゃ環くんが心配してるかな、と心配して怒る環くんを想像し、心の中で笑った。
そうだ、環くん。違う。生きてないかもしれないんだ。私が刺された後、環くんはどうなったのだろう。
じっとなんてしていられなかった。鉛のような体に鞭を打ち、起き上がる。あの施設に行かなきゃ。その命令だけが私の体を動かしていた。
力の入らない手が、ドアを開けた瞬間だった。
「みょうじ、先生?」
ドアを開けた先で待ち構えていたのは、目を零れそうなほどに見開いている施設の先生と、同じような顔をしているレジ袋を抱えた環くんだった。
「ちょ、え?!動いて大丈夫なんですか?!いつ目が覚めて?!え?!」
「おおおお落ち着いてください!というか、環くんは?!大丈夫なの?!」
大人二人が動揺してわたわたしている一方で、環くんはマネキンにでもなったのかというくらいに動かなかった。瞬き一つしない。
「環くん?」
「…」
「環くん、なまちゃんだよ。」
「…なま、ちゃん、」
「そうだよ」
「…っ!!!」
環くんは私を呼んで確認すると、大粒の涙をぼろぼろと床に撒いた。涙だけだったのが、おさえきれなかったのか、大声をあげて泣き始める。
「おおおお、環くん。泣くな泣くなよぉ。」
「うぇ、だ、だって!!なまちゃん死、んだとおも、思って!!」
「死んでないよ。大丈夫。」
「ど、どっかに、いっちまうんじゃ、な、ないかって!!」
「いるよ。いる。ここににいるよ。」
「ねぼすけぇ〜!!!」
「ごめんね。環くん。」
私は環くんを抱きしめた。温かい環くんの体。
そんな私たちの姿を、病院の先生たちが温かい目で見ていた。
(環くんの背中に回した私の手が透けていた。)
(あぁ、もうすぐ時間切れだ。)
(ごめんね、環くん。)
(私はもう一回、小さな声でつぶやいた。)
20151026
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