輝いていたと思う。
「…ん、…くん!」
誰かが俺を起こす声が聞こえる。なんだよ、今いいところなんだ。
「環くん!!」
目を気だるげに開けると、視界100%にそーちゃんがいる。
「もうすぐでライブ始まっちゃうよ!」
はじめての屋外ライブなんだから!と張り切るそーちゃん。
「なまちゃんかと思ったのに…」
「なまちゃん?」
「なんでもねー。」
随分昔の夢を見た気がする。まだ施設にいたころだ。2週間しかいなかったけど、その2週間は俺にとっては宝物の様な日々だ。
なまちゃん。2週間しかいなかったけど、俺の大好きだった人。多分、初恋の人。
なまちゃんが目を覚ました次の日に俺はいつも通り王様プリンを2つ買ってもらって病室に行ったんだ。そしたら。
その病室には誰もいなかった。まるで、最初から誰もいなかったみたいに。
「なまちゃん?」
呼んでみてもおれの声が微かに響くだけだった。
ベッドに近づくと、白い封筒があった。手に取って裏を見ると、女みたいな小さくて丸い字で『環くんへ』と書いてあった。
おれ宛だとわかった瞬間にすぐ封を切った。手紙には1行だけ。
【環くん。先に未来で待ってます。約束守って、大きくなってね。】
手紙には丸いしみがいくつもついていた。
不思議と涙は出なかった。でも、なまちゃんのいない日が続いて、あぁ、いなくなったんだなぁって思ったら、涙が出た。
「元気かなあ…」
「お、タマ。珍しく物思いに耽ってんな。」
「ヤマさん。」
お前宛に伝言頼まれたんだよ!とみっちゃん。
「20代前半くらいの女の人でな、【環くんは元気ですか?】って聞かれて、あぁはい元気ですって答えたんだ。そしたらさ、」
約束通りちゃんと大きくなってくれてうれしいよって、伝えてもらってもいいですか。ってさ。
お前の昔の恋人か?!なんてヤマさんが言う。そんなの俺はお構いなしにヤマさんに聞いた。
「その女の人、どこら辺にいた?!」
「え?いや、ライブ会場の周辺で俺らの歌を聞くんだって笑ってたぜ。」
「そうそう。なんでも泣いちまいそうなんだってさ」
「環くん!どこへ行くの!!」
そーちゃんの声なんて聞こえない。俺は全力疾走でライブ会場の外へ走った。
「(っ、くっそ、人が…!)」
人が思ったよりも多くて、何が何だかわからない。どこだ、どこなんだ。
「っ、なまちゃんっ!!!!」
こんなに叫んだのは久々だった。人の目なんて気にしない。彼女が見つかれば。
それでいい。
「え?!環くんだ!」
違う。
「わぁ、ライブ前なのにどうしたんだろう!」
この人じゃない。
「ったま…!」
後ろから聞こえたかすかな声。大好きな声。ずっと聞きたかった声。
後ろを振り返ると、あの時の姿のままの大好きな人。
「…、大きく、なったね。」
嬉しいよ、と今にも泣きそうな顔をするなまちゃん。
俺は彼女の手をひいて、誰もいないライブ会場の機材の裏に連れてきた。
「…やっと、見つけた。」
「うん」
「どこにもいかねぇって、いったじゃんか。」
「ごめんね。」
「…でも、もういい。」
「環くん…」
「やっと見つけたんだ。もう絶対に離すもんか。」
俺はあの時みたいに、あの時より大きな体でなまちゃんに抱き着いた。
なまちゃんも俺も泣いてたけど、何よりも幸せだった。
秘密基地
(ライブ、見てて。)
(うん。)
(なまちゃんがいなくなった後の話とか、話したいこと、たくさんあるんだ。)
(…聞きたいな。環くんの話。)
20151026
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