でも僕は何にも疑うこともなく
「…やっぱり貴方なんですね。」
「せっかく環くんのおかげであなたに近寄れたのに、彼は出しゃばり過ぎたんですよ。」
「子どもにそんなものを求めるんですか。環くんの傷は幸い深くはなかった。でもあなたのしたことは犯罪です!」
「あなたはいつもそうだ!環くん環くん環くんって…!…その声で僕以外の名前を呼ばないでくださいよ…。」
「…?」
「僕はただ、あなたのことが好きなんです。素直なあなたが好きだった!なのに環くん環くんと…!僕の何がいけないんですか。」
「すべてです。私は環くんに命を助けられたといっても過言ではないんです。環くんは私の命の恩人です。好意を寄せられて悪い気はしません。でも!」
あなたは恋を阻むものなら、子どもまで排除するんですか!
「あなたは、保育者です。子どもの心に寄り添って、子どもを守っていく職員です!環くんだけじゃない。あなたを信じようと努力している子どもたちに失礼です!」
「うるさいうるさいうるさい!!」
山野先生がナイフを構える。
「僕を見ないあなたなんて要りませんから」
ゆっくりと、一歩一歩確実に近づいてくる。
「君の大好きな環くんと一緒に殺してあげます。」
目の前に、いる。
笑顔の山野先生。
「まずはあなたからです。」
愛してました。みょうじ先生。
ここで殺されたら、現代に戻れるんだろうか。
凶器を振り下ろされるのに、殺されようとしているのに動かない体。
うごけ。
うごけ。
「…っ、なまちゃん…っ!!!」
地を這うような環くんの声が聞こえた。
(刺されても、痛くない。)
(ただ、熱いだけなんだ。)
(私は強烈な熱さに意識を失った。)
(耳の底で環くんの声が木霊した。)
20151025
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