届くはずのない大きな大きな空
その日の夕食。環くんが見当たらなかった。


「環くん?」

部屋を覗いてもいない。リビングルームにもいない。ひょっとして裏庭でお昼寝してそのままなんじゃないかと思って裏庭へ行ってもいない。


「(でも確かにあの時環くんは王様プリンを食べていたし…)」


家出かと一瞬冷や汗をかいたが、彼は理由もなしにそんな街を徘徊するような子ではない。そう思った。


「みょうじ、先生っ…!!」



「山野先生?」


山野先生が血相を変えて走って来た。山野先生の額に浮かぶ汗は尋常ではない。彼は私の前で止まると肩で息をしながら私にこう告げた。

「た、環くんが…!」

山野先生から告げられた言葉が、私の耳を貫く。



環くんが、鉄骨の下敷きになったんです。



「環くんが……?」

「ええ、早く現場に!」


山野先生に手をひかれるがまま、使ってない家具などを収納する倉庫へとやってきた。



「…!た、たま…」

私の唇からは今まで守ってきた子供の名前が紡がれることはなかった。開いた口が塞がらない。

そこには、頭から血を流して家具の下敷きになっている環くん。


「環くん!!!」

急いで環くんに駆け寄る。まだ息はあるものの、いつどうなるかわからない。どうしたものかと周りを見渡す。

「(…血が、)」


頭には血がべっとりなのに、床には血すらついていない。明らか探偵ではなくてもわかる。これは不自然だ。

「(家具の下敷きになり頭を打って流したなら、血は床につくはず…!)」

なのに環くんはうつぶせで、後頭部を怪我している。


「(…卑劣ね。)」

「みょうじ先生?どうなさったんです?」

焦っているように見えるが、何も行動しない山野先生。そして綺麗な床。不自然な怪我の場所。


「…山野先生。」

「はい?」

「悪いことは言いません。自首しましょう。」





(自分が何をしたのか、わかってるんでしょう。)
(…なんのことです)
(…その言い逃れ、後悔しますよ。)

(私は、環くんの傷の手当てを行って、山野先生に振り返った。)
(そこには、ナイフを携えた山野先生がいた。)


20151025

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