終わらない嘘
嘘をついた。本当、小さい嘘。
だけど心に住み着いて、もう一生離れる事はない。
そう。ここは深い深い雨の中。
抜け出せない…。
抜け出す手段がわからない。
誰か
誰でもいい…今、俺は助けて欲しい……。
頭が痛かった。それは、とても。
きっと誰も分からない程の痛み。
嘘をついた制裁なの?
もう…許して…
開放してよ。
暗く閉ざした心の中で分かった事が三つ。
一つ、もう君と話す事など許されなくなってしまった事
二つ、頭が割れる程痛いって事
そして三つ、今日がどんな日であろうとも必ず明日がやって来るって事…。
前を向いていなくても進める…。
もう、頑張らなくていいよ…精市…。
疲れたから少し休もう…。
深く眠りに就きたい。
お互い成人を迎えてもう三年経つね。
窓を叩く音がして目を覚まして辺りを見渡せば全ては赤い。
それは二週間前の事。
君の笑顔が泣いていた。
訳を聞いたら涙が出た…。
俺がただのんびりとお風呂に入ってた時。
君の家族は何者かに殺されてしまっていた。
ランニングで家を出ていた君だけが幸か不幸か生き残ってしまった。
だから俺は犯人を見つけ出し、この手で処刑した…。
君は泣いていた。血まみれでナイフを握った俺の姿を見て何も言わず、ただ、泣いた。
もう君には泣いて欲しくなかっただけなのに、また泣かせてしまった。
ごめんね…。
血塗られた体で清廉潔白な綺麗な君の体を抱きしめた。
ああ…こんなにも震えて…。
激しい頭痛が俺を襲ってもこの手は離さない…そう誓った筈なのに…
俺は何を間違ったの?
知っているのなら教えて欲しい…。
俺を見て怯える君の顔に築いてしまった。
「真……」
俺が愛した人は消えた。
君もボクと同じ。
きっと
嘘を許されたい…。
それだけ。
「ねえ真田…?君は俺と出会って幸せだった?」
動かなくなった君の体。
帽子を取った黒い髪の毛を撫でる。
君は そう、全てを黒く染めすぎたんだよ。
今はもう終わってしまった物語をもう一度最初から読み返す、進めない俺。
君との終わったストーリーを必死に繋ぎ止めたいだけ…。
どうか安らかな森の中で俺の夢を見ていて欲しい…。
愛してたのは本当だから。
そして今も変わらない。
君だけを愛してる。
生き返ってよ、真田。
蹴って、蹴って,
夜が明けた
君はいつから動かなくなったのだろうか…。
俺のせいなの?ねえ、答えてよ…。
血まみれの君を見て思わず声を上げた。
獣のように、曇った声で。
自分の顔を隠した手。
頬に君の血が付いたのを不快に思った…。
だって…。
もう俺は一生外に出る事を許されなくなった立場。
君を一人にしたくはなかった…。
刑務所の中は狭く、苦しい。
俺は今、この狭い空間の中で死刑にされるのをじっと待っているだけの人間。
未来はない。
死ぬのは怖くない。
早く気にの元に行きたい。
神様がいるんならば、何故こんなにも非情に俺達にだけ不幸を与える?
俺は…風になりたい。
コツ、コツ、と複数の足音。
「402号、出ろ。」
それは死の宣告。
サヨナラ…。
「最後に言い残したい事は?」
「……」
「402号…?」
「大丈夫です…。言葉なら、向こうに着いてから沢山話します…。」
俺の目は布で隠され、手と足は拘束される。
首にロープが架かる。
これで…君に逢えるんだね…、真田。
処刑される前のほんの僅かな時間、ほんの少し、口を開いた。
届かないのを知っていながら発する言葉。
「雨は…今、降る…。深い嘘を流しながら…。」
―――――何もない白の世界の中で君を見つけた。
声が出ない…。
その代わりの笑顔を見せる…。
(2011/03/08)
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