壊れた仮面
今の俺じゃあ空が晴れているのか、沈んでいるのかさえきっとわからない。
そして君の顔が笑っているのか、泣いているのか それさえ知らないよ…。
苦労して手に入れた君の事、その時の喜びを忘れていた俺にやって来た物、それは深く重い日々
苦しくて泣きそうだけれど、さっき君に打たれた泣き顔の代わりの頬の痛みが悔しくてただ狭い部屋で立ち尽くした。
君はどこへ行ってしまうの?
もう戻っては来ないの?
答えなんかない事はとっくに知ってる
そうだよ、今は何をしても何を言っても君には届かない。
俺はすっかり自惚れていたんだね。
だから悲しそうに笑う君に気付けなくて、沢山、傷つけたね。
許してくれなくてもいいさ。
どうせ悪いのは俺の方。
恋人だからって 安心して 手放したのは俺だから…
だから、どこかで泣いてて。
そうしたら優しい誰かがやってきて 君に優しいキスをする。
もう泣かないで済むよね…。
一番愛してたから、まだ二人 幼すぎたから。
「幸村、話がある。」
「?」
「もう終わりにしよう。俺たち。」
「え……。」
「俺はお前を幸せには出来ない」
そう言った君に俺は何も言わずただ黙った。
あの時君は俺にどうしてほしっかったの?
そんな事、自分で考えないといけない事は分かってた
だけど心は真っ白で、今の俺はただの人形みたいで、空っぽな返事しか出来なかったのさ。
少し離れれば逢いたいと思っていた感情
誰にも触れさせたくなかった事もこの胸のどこかに閉まって、引き出す事を忘れていた
自業自得
君を幸せに出来ないのは俺の方だった。
分かってる、分かってるんだけど もう…どうにも出来ない事沢山ありすぎて頭が回転しない。
もう一回だけでも君を抱きしめる事が出来たら俺はどうするかな、母の首に縋って泣く子供の様に君を困らせるでしょう。
同情でもいい。何でもいいからそばにいたい。
今、走って追いかけたら会える?
頭で考えるよりも先に体が急いで追いかける。
だってあんなにも、消えそうだったから。
逢っていますぐ抱きしめないと、壊れてしまいそうだから…。
「徳が…っ」
暫らく走って、走って走ってやっと見つけたのに、君はもう遠い人。
黄色い髪のフワフワ揺れるその人と一緒にいるんだね…。
―――――ピシピシ…と、何かのヒビの入る音。
こんなに苦しいのに、君は違う人と笑っているの?
なんでこんな場面を観てしまうの?
どうして、君は楽しそう?
許さない…許せない…。
昨日はベッドで二人眠りに就いて、朝にはちゃんと朝の挨拶を交わしたはずなのにもう次の人。
君はそんなに尻軽な男ではなかったはず。
ねえ、いつから?
いつからそんな人になってしまったの?
最後にキスをしたのは三週間程前。
もしかしたら あの時から君はその男と一緒にいたの?
そうだとしたら…俺はもう随分と永い間、たった一人で一方的に君を想っていたというの?
「ねえ、俺のこと愛してくれてる?」
と訊いた時の
「愛してるよ」
も、全て嘘だったの?
それにもっと早く気付くことが出来ていたなら俺は、自分から別れを告げて新しい恋を始める事が出来ていたのだろうか…。
ううん…きっと違う。
多分ずっと君を追い続けて10年でも20年でも君を愛していたんだろうね。
きっと今と何も変わらない。
君の事を愛して愛して気が狂う。
恋とは無情。
あんなにも大好きな人のことを こんなにも遠ざける
もっと愛してほしかっただけ。
…階段を蹴って、大きな音がして
足が少しだけ痛いよ…。
一人虚しく帰る途中、俺の足音に気付いて追いかけて…?
後ろを振り返る。
君がこちらを向けば俺の姿に気付いているはず
君は俺のいる方の向きを向いている。
一瞬、目があったね。
だけど君は知らないフリ…
―――ガシャン…
さよなら俺の優しい仮面。
さよなら…笑顔の自分…。
壊れてしまった仮面の下に自分と認めたくない位怖い顔をした自分が潜んでた。
――戻らないなら、手に入らないのならば…壊すしかなさそう…。
「ねえ、徳川さん。」
「…!?……幸村…?」
驚いた素振り。
わかってる。そんなの嘘だ。
さっき見たでしょ?まだ仮面をつけていた時の俺の姿を。
「追いかけたんだよ、君の事」
「……な、なんで」
「決まってるでしょう?君を誰にも触れさせたくないからだよ…」
君の事が好きで、ホント、心から愛して…
「ごめん幸村…。俺はもう―――「やめて…。」
君の言葉を遮ったのは続きを聞きたくなかったから。
ホントは誰より弱虫で、心が痛くって、決して晴れない胸の奥は森の様で…。
痛い。
「やめて…聞きたくない。」
突然降り出した雨はこの俺を侮辱するかの様。
泣いても誰にも気付いてもらえないから優しくされない。
わかってよ。胸が痛いの。
崩れそう……。
「少しでいい…ホント、少しの間でいいから抱きしめて…。嘘でもいいから愛してるって言って。…だって、嘘をつくのはもう慣れてるでしょ?」
情けない言葉。
だってもう君は俺を愛してなんかいない。
「こんなに壊れた俺は…誰にも拾ってもらえない…。」
今の俺の空には水が滴る。
だけど雨が降りすぎて綺麗な花は枯れ、果てた。
君の見せる好きだった笑顔は今の俺じゃあもう見えない。
ぼやけて何(なん)にも見えないのは涙のせいだね…。
思い返せば最初から拒んで遠ざけてたのは俺だった…。
その償いに俺はせめて一生君に付き纏う…。
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