323様

323:癒されたい名無しさん
11/03/26(土) 20:40:34 ID:a0cLAKpQO
左利きの彼女は僕を誘うのに右手を振る。
「幸せを掴みたいからいつでも利き手は空けておく」
その幸せは耳かき棒を握ってるんだね。心配の意志表示だ。

「寝ちゃうから」

定位置の僕の頭と彼女の太もも。

柔らかに髪を撫でて彼女の右手は放熱する太陽。神経質な感覚をなだめて、過ぎていく時間を倍にして。

「固いね。仕事きついの?」

昨日まで作り上げた心の緊張は、いびつな残滓で情けなくしていた。
ふとした口論の仲直りは彼女の左手の耳かき棒。
324:癒されたい名無しさん
11/03/26(土) 21:01:07 ID:a0cLAKpQO
耳が固くなるのか僕には分からない。

ゆっくりと彼女の指が揉みほぐしてくれる。

「辛かったのなら言ってくれたらいいのに」

緊張のない日常を忘れた僕を、彼女の指は静かに包み揺らす。
「久しぶりだから。自分で掃除してないの?」

君を待っていたかったのか耳掃除すらめんどくさい日常だったのか。


ふ…
小さめな匙の耳かきが不意に耳の入口を這いはじめる。一周。二周。


懐かしい。古臭いような感情が湧いて。いつ以来だったっけ。

入口を丁寧に円を描くのが彼女の流儀。


341:323
11/04/18(月) 11:34:37 ID:rpT7XRVwO
遠い音のようでほんとうにわずかな距離を隔てるだけの鼓膜と耳かきの匙。

見えないけど踊るように耳垢を匙は掬いあげているのだろう。

なんだか全身に痒みが回り始めたみたいな感じだ。意識が点に集中する。緊張ではなく、一体なんなのか。

ほぼ入口の部分は終わったのか、奥に移動を始めた。

カリ…とも…ガサ…とも擬音として表現しがたいけど彼女の指に意志があるように、ある幅のストロークを持って幾度となく耳壁を削り取ってる。

痒みの集中点に近づいている。そのことを知らせるべく五指の先で彼女の膝頭を掴む。

察知したのだろう。念入りになってきた。

内耳にもツボってのがあるらしい。彼女は正確なツボの位置を知らないだろうけど、僕の指先の合図と以前の記憶で見当がつくみたいだ。

耳垢を削り掬いあげるだけじゃなく、マッサージのようにグッと押してもくれる。
ポイントに来た。かさぶたを剥ぐような気持ち良さが広がる。

カッ…カッ…ぐい
グッ…

どこか体の芯からかきむしりたい痺れに似た充実。

342:323
11/04/18(月) 11:51:33 ID:rpT7XRVwO
釣りなら魚の大きさでなく竿を通して感じる他の生命との力のやり取りに充実を覚える方か。

そんなささやかな意識は刹那に忘れ、ありがとう…気持ち良かったと彼女の膝を一度触れる。

ここから先の趣向は彼女に委ねる。気がつけば髪を緩やかに撫でられている。

さらに奥は大物がいるようだ。バリバリと僕だけに響く音がなんとも奇妙だ。ひとひら…一枚?一片の耳垢を狩るつもりらしい。


※書き溜めがないのでまた投下いたします

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