833様

883:癒されたい名無しさん :2009/09/24(木) 01:36:31 ID:4zPsvHKC [sage]


初挑戦でいきなり長文、しかもリクエスト無視全開ですが投下 その1



 小さいころ、耳掃除といえば月に2〜3回くらいの小さな小さな楽しみだった。
夕食も済んだ土曜の午後8時40分過ぎ。母親の膝枕に生まれる前の胎児のように
ひざを抱え込むような姿勢で寝っ転がり、耳かきが入ってくるのを待つ。
風呂は夕食前に済ませていて、湯上りのさっぱりした感じの中で食事の味を楽しんだ後である。
隣には妹。
「次は私ね」
「はいはい、ちょっと待ってね。お兄ちゃんが終わったらしてあげるから」
ちゃぶ台を挟んでその奥には親父。丁度時代劇がクライマックスを迎える時間帯だ。
 耳を多少乱暴に引っ張られ、母は光を耳穴に入れ少しでも見やすいようにしようと
目論む。その様子を興味を持つか恐怖を感じているかは知らないが、覗き込む妹。
「あまり近寄らないようにね。危ないから」
「はぁ〜い」
「あら、おっきい耳垢・・・」
急に母が黙る。幼少ながら俺にも緊張が走る。聞こえているのは時代劇の殺陣で斬り合う
音だけだ。
「とれた!」
884:癒されたい名無しさん :2009/09/24(木) 01:37:20 ID:4zPsvHKC [sage]
その2

 そこで目が覚めた。どうやら子供のときの夢を見ていたらしい。
俺は今大学生で一人暮らしをしている。部屋の中が妙に蒸し暑い。
当たり前だ。昨日最後のレポート課題を教授に提出し、意気揚々と
「今夜は夜更かしするぞ!」
と意気込んでゲームをやり込み、気がついたら夢を見ていた。ゲーム機もテレビも
電源が入っている。ふと画面を見ると主人公は哀れな姿で倒れており、
「GAME OVER」の文字が画面に現れている。
 今日から8月。学校は夏休みに入り、友人はみんな実家に帰省してしまっている。
俺も8月に入ったら学校休みに入るから、すぐ実家に帰ろうと思い、連絡を入れておいたのだが
試験から開放された安堵感も手伝い、昨夜は夜通しゲームをしてしまった。
 かばんに適当に荷物を詰め込み、実家へと戻る。本当は飛行機で帰りたかったのだが、
旅費が高くつくため、夜行バスで8時間かけて帰ることにした。時間を見るとまだ午前11時。
軽く荷造りをし、ちょっと早めの昼食を近くのコンビニへ買いに行き、また寝ることにした。
タイマーを午後5時ごろにセットし、ゲーム機の電源を切った。テレビはチャンネルを換え、
そのままつけっぱなしにしておいた。

 ちょっと早い4時ごろ目が覚めた。歯を磨き、ひげをそり、何気なく耳かきを取り出す。
子供のころ、母親のように自分ひとりで耳かきがしたかった。中学のとき初めて一人で、
耳かき片手に耳の中を冒険してから、俺は耳かきのとりこになっていた。
もちろんやりすぎないように個人的にルールは決めてある。
右耳は普段どおりといえば味気ないが、白っぽい粉状の耳垢が出てくる。ただ、暑さのせいで
耳穴が汗をかいているせいだろう。最初は黒っぽい湿った土のような耳垢が多かった。
 さて、左はどうかな?と思ってゆっくりと耳かきを穴に入れる。
カリカリ・・・コリコリ・・・
いつもどおりの耳と同じか・・・
コリコリ・・・カリコリ・・・カツン!
いつもと反応が違う。昨日まではこんなところにカツンというような音を立てるものは
存在しなかった。慌てて耳下記を抜き取り、首を縦に振ってみる。
カラカラ・・・カラカラ・・・
何か転がっているようだが、ある場所で止まっていてそのせいで耳穴から出られなくなっているのか?
耳の奥は痛いので普段は耳の奥までは絶対に耳かきを突っ込むことはない。それで気づかなかったのか?
ただ、どんなものがどれくらいの大きさでどのくらいの耳穴に詰まっているのかはわからない。
俺はできるだけ気にしないようにして食事を取り、夜行バスに乗るため荷物を持って部屋を出た。
885:癒されたい名無しさん :2009/09/24(木) 01:38:02 ID:4zPsvHKC [sage]
その3 (ラスト)

 相変わらず実家に戻っても左耳は中でカラカラと音がする。
1週間前からは食事のときや普通に歩いているときでさえ、カラカラと耳の中で音を立てるようになった。
毎晩耳かきでそいつをつついているが、一向に今いる場所から動こうとしない。
 転機は突然訪れた。その日は適当につついても仕方がないと思い、先が細い耳かきを使って、
ゆっくりと左耳に入れ耳壁と例のブツの隙間に先を突っ込んでみた。
 ぐっぐっと先端を押し込み、これ以上はもう入るまいという位置で止め、耳の穴口に向かって
引き出すように何度か引っ張ってみた。意外にも耳の中では何も音がせず、出てくるような気配もない。
「今日も出てこないか・・・」
俺はあきらめ、寝ることにした。窓の外から該当の光が漏れる。実家の周りは大きな幹線道路が
新設され、その道路近辺には新しい店が軒を連ね始める。ゴロゴロと寝返りをするが、そのたびに
左耳からもゴロゴロと音がする。俺は左耳を枕につけ、そのまま朝まで動かずに寝てやろうなどと
無謀な計画を立てていた。
 そのとき、耳の奥から温まった水が一気に洪水のように押し寄せる感覚を得た。
「あちゃあ・・・」
耳を引っかきすぎて血が出たのか。それとも風呂の湯がブツと耳壁の隙間をぬって奥に
入っていってたのか・・・。あまり喜ばしい自体ではないのかもしれない。
 暖かい何かは耳の奥から耳の穴へとどんどん駆け下りてくる。と同時に、耳の中を何かが
転げているような感じもする。

 ポトン。軽く枕が鳴った。思わず顔を上げ電気スタンドのスイッチを入れる。
枕は濡れていなかった。
「よかった・・・。血が流れ出てたらどうしようかと思った・・・」
安堵して枕を見るとそこには、耳の穴と同じ大きさの熱をもった巨大な黒い塊。
三角形をしていて角のところは丸いものの、変の部分に相当する部分は完全に直線。
これじゃ転がって出てくることはないな・・・。さっき引っ張ったのが良かったのか・・・。
 その後時間も忘れてその塊をずっといじり倒したのは言うまでもない。
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