飴耳

497:癒されたい名無しさん :2008/11/24(月) 02:32:29 ID:/wp0Zao7 [sage]
飴耳

彼女が手に取ったのは、スパイラル綿棒。耳壁にコットン部分がつくと、にちゃりという
ねちっこい音がした。少し強めにこしこしと動かす。それも、ただ動かすのではなく、
奥から手前に、そして少し浮かせてまた奥へ、と同じ動作を繰り返す。綿棒を回転させ、
コットン部分の位置を変えてから他部分の耳壁へと移る動作は、汚れた雑巾を
裏返すのを連想させた。少し強めに耳壁にこすり付けられるたび、にちりにちりと
耳垢が取れていく様子が実感できた。時々クルリと耳全体をなでまわす…というには
少し弱いか。耳全体をこすりまわしながら、奥から手前、奥から手前という動きを繰り返す。

快感に体を震わせていると、綿棒が離れた。と思えば、再び乾いた感触が耳の中を触る。
どうやらひっくり返し、再び施術するようだ。今度は、グリグリと耳の穴に沿った動きをする
綿棒。さきほどでは取り切れなかっただろう耳垢の音が、ネチャ、ネチャという音から
ガシ、ゴシという心地の良い音に変わっていった。その、強すぎない強さが非常に心地良い。

うとうととした眠気を私にもたらしたそれは、仕上げだったらしい。数回耳の穴で弧を描いたあと、
直ぐに抜かれてしまった。
もうおしまいか…と頭を上げかけると、こめかみ部分に手をそっと添えられた。どうやら
まだあるらしい、がっかりしかけただけに大きめに膨らんだ心が素直に彼女に従った。
そっと、本当にそっと、細々とした綿棒が耳に入ってきた。この間買ってきたベビー綿棒だ。
息が詰まる感覚がしてつい声が出た。その反応で心配しだのだろう、綿棒を抜き痛いか
と上から声が降ってきた。驚いただけで痛くは無いと伝えると、彼女は返事をして再び
そっと綿棒を耳へと挿入させた。

喉詰まりと勘違いしたその感覚は、耳の奥まで綿棒が入ってきたせいだった。この部分は、
普通の綿棒では絶対に入ることのできない領域。むしろ、ホンの少しも押し付けると直ぐに
痛みが走るため、自分でもやろうとはしない場所だ。不安にかられる。
しかし、さきほどの力強い動きは全くなかった。本当に、「触れる」だけの力加減しかなく、
擦り取る、というより、触れた状態でくるくるとベビー綿棒を回転させ、私の耳垢をかすりとって
いった。その神業ともいうべき繊細な技術と、にちにち、ごそごそとくぐもった音は、耳垢と
同時に私の不安さえ取り去り、代わりにさきほどの比ではない心地よさをもたらす。
さらに、眠気ももたらす。睡魔が襲ってくるのはさほど時間はかからなかった。

朦朧とした意識の中で、すっと耳の中のものが抜かれていく感触がした。終わりだったら
離れなければいけないな、と思ったが、既に頭を上げる気力すらない。少し申し訳なさに
浸っていると、再び入ってくる、乾いた、繊細なもう片側のベビー綿棒。どうやら私の天国は
まだ続くらしく、今度は奥の仕上げに入るらしい。
手順自体は、先ほどベビー綿棒が入ってきたそれとは変わらなかったが、ネチネチ音
が無くなり、ゴソ、ガスと音だけ大きな繊細な動きが心地良い。
何も考えられなくなる。目はつぶっているはずなのに、だんだんと目の前が白くなってきた。

突然、更なる心地よさが私を襲う。何か、耳の中にすぅっとした…風、だろうか。が入ってきた。
意識を手放しかけていたので、ベビー綿棒が抜けた瞬間すら気付かなかったようだ。
こすられて少し熱くなっていた耳壁に、ひんやりと心地よさの波が来る。
意識がはっきりしていれば、メンソールだろうか、オイルだろうか、と考えでもしただろう、が、
もう、なんでもいい。これは気持ちよい…それが、今、考えられる…全てで………。



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