遊郭にて

318:遊郭にて :2008/04/02(水) 04:33:30 ID:lRLJfm5b [sage]


あーーー極楽至極だねぇ

アレそんな、若旦那。わっちの取り柄はこれだけのやうなことばかり。

イヤイヤ浪里よ、お前の膝のここちいいこと。
まるで羽二重のやうでないかね。
おまえのその手の柔いこと。
その手で引っ張られると痛くもなあんともないのサ。
アアそこだよそこ、いいねぇ、もっとやっておくれ…

こそばゆくはありんせんか。

そのこそばゆさがいいんだよ。そう、そこだヨ…
お前に耳を掻かれると、どんな男だって頭から蕩けちまうだろうて。
あたしはね、お前に逢いに行くときはいつも風呂で耳を蒸してくるのサ。
こうやって、手ぬぐいでサ、

若旦那の耳のものはいつもこの櫛のやうな色でサア。

ほう、鼈甲かい。
お前いつの間にそんなものを呉れるお大尽を見つけたんだい。
こりやああたしの居ぬ間にイロでもできたんだらう。
アッ、痛えッ!

ぬしはさうやっていつもわっちをいじめなんす。
そもそもこの耳掻きだとてぬしがわっちにこうて呉れたものを…
わっちはいつもこれを挿して座敷にあがりんす。
どんな客のまへでもこの簪を抜かぬというのに…

悪かった、悪かったよ、だからもうみみたぶを引っ張るのはやめてお呉れ。
おおそうだ、そんなふうに…アァ、あたしはもうお前の膝の上でくたばっちまいそうサ。
たまらないねえ、おう、そこだ、もそっと奥…さうさう、

若旦那。見ておくんなんし。
この色、この嵩、これだけのものが取れるのは若旦那、ぬしだけにありんす。

アア浪里、ほんに心地よかったよ、耳が自然とあつぅくなるやうだ。
それ、懐紙にくるんで持ち帰らせてお呉れ…



けふの客はやっかいなもんでござんしたね、浪里さん、

さふかい、これでわっちも楽しんだんだからマァいいんだよ、

さふ言って浪里は簪を逆手に結った髪の奥をがりがりと掻いた。





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