浜(企画:ふたりたび様提出作品)





海独特の潮の匂いが鼻をかすめる。一歩歩くごとに波の音が近くなる。永遠に続く水平線。そう、ここは

「曽良くん曽良くん!、ほら海!海!」

海、それも日本海である。

力強くうつ波、白い砂浜、青く澄みきった海、晴天の空。ここまで揃えば、師のスランプはきっと治るだろう、と弟子、曽良は思う。

先に行った芭蕉のところに向かおうとすると、ある一つの話が曽良の頭を過った。


波、白い波、……白波。
昔から白波は『たつ』と表現されてきた。そして、今、自分は浜辺の上に立っている。そう、『立つ』。
自分たちにとっては限りなく当たり前に近いこの『立つ』と同じ音を使い、白波は『たつ』のだ。

白波が『たつ』。
それは、自然現象と重なれば、この浜なんてあっという間に消えてしまう。


いつになく弟子が遅いので、水遊びしていた芭蕉は後ろを振りかえる。

そこで芭蕉が目にしたのは、他の誰でもない、曽良だったが、どこかもの悲しげだった。

「そ、…らくん?」

おそるおそる近づいてみる。行きなり駆け寄って断罪されるのは真っ平御免だ。

だが、いくら芭蕉が近づいても曽良の様子は一向に変わらない。

「そー、らくん、だよ……ね?」

その声で我に返った。
目の前にいる爺を断罪し、自我を取り戻す。

「何考えてたの?」

あなたには関係のないことです。

「ケチ、この百貫デブ」

……はぁ、仕方ありませんね?

そう言うと、芭蕉は目を輝かせた。多少、いつもと違う様子に驚いていたが。

「あんたは、白波が『たつ』ことをどう思いますか?」

一気に頭の中が白くなったのが自分でも分かった。
そんな芭蕉なんて知らないで曽良は先程自分が考えていたことを続ける。

「そういうわけです。
あんたはどうなんですか。」

話の矢先を向けられ芭蕉は困った。しかし、話を聞いていくうちに自分なりの考えは固まっていた。

「そうだねー…、確かに白波が『たつ』のは怖いね。でもさ、浜は必ず残るじゃん。」

その言葉に微かに反応する。

「どんなに荒れ狂った白波でも浜は受け入れる、まさに私みた、ヒヒィン、痛いって曽良くん!」

最後の方は何かむかついたから断罪しておいた。

確かに、浜は残る。
この浜だって、きっと沢山の白波を受け入れてきたんだろう。

なら、

「ほら、芭蕉さん」

僕らも

「さっさとしないと」

この浜のような寛大の心で旅をしよう。

「置いていきますよ」




FIN




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