映画のようにはいかないね


電車に乗っている。
珍しく先頭車両が空いていてボックス席だったのを良い事に、進行方向と同じ方を向いて電車先の風景を頬杖を付きながら眺めた。
特に行き先は決めていない。
とりあえず切符を適当に買って、駅から出ることなく適当な鈍行旅行している。なんとなく暇だったので。

いつの間にか左右に流れる景色からは灰色で凹凸の街並みが消え、色とりどりの屋根たちも消え、とうとう先陣に見えるは深緑のみとなっている。
地図上では然程遠くない距離でもこうして見ると知らない世界に来てしまったようで、少しだけわくわくしてきた。わくわくしたら喉が乾いたので、さっきのホームで買った抹茶入りの緑茶を飲んだ。苦い。
キャップを締めながら先頭の景色を見ると、電車は次の駅に向けて徐行をし始めていた。やがて完全に停車すると、入れ違い列車待ちのため15分停車しますとダミ声のアナウンスが入った。レールが一つしか引かれていない電車に初めて乗った気がする。
ぼんやりと外の景色を眺めた。緑の世界だ。


今日の朝、前髪が全部外側に跳ねていた。
どうせ朝風呂するからいいやと思って、そのまま弟が用意してくれた朝食の席についたのだが、弟はそんな僕の前髪を見るなり腹を抱えて笑い始めたのだ。
「兄貴それはないよ……!外側って……!」
ひーひー肩を震わせながら喋るもんで、机上の醤油と小皿がかたかたと揺れている。
好きでこんな寝癖がついたわけじゃないのに。
「逆にどうやったら綺麗な前髪で起きれるか聞きたいぐらいだけど」
僕は震えている弟を横目に、白身魚を一口囓った。骨がごろごろして痛い。
「上向きに寝ればいいんだよ!だって兄貴下向きに寝るんだもん!」
笑い過ぎて涙目らしい僕の弟は、自分の前髪を右手で正すと後頭部をぐしゃぐしゃ掻いた。真っ黒だった弟の頭髪は、もともと金髪だったこともあって段々と栗色に抜けてきている。
「髪色抜けてきたね」
「友達に染めると活発なお兄さんみたいだねって言われたから、そう言われて嫌だった頭髪が色素を排除してるんだと思う」
「僕も金にしようかな」
「気持ち悪いからやめて」
金髪は俺のあいでんてぃてぃだから、弟は白身魚の骨を箸で細かく丁寧に取ると身をご飯に乗せて食べ始めた。器用な食べ方だ。
茶色に金メッシュはあったけど、多分僕は金髪って顔じゃないんだろうなあ。弟と比べて活発じゃないし。


電車が動きはじめた。
先頭で舞っていた紋白蝶が風圧に負けて右に流れた。彼女は多分羽根に傷を負っただろう。
お腹がなった。弟に晩御飯までには帰るって伝えてたのでそろそろ灰色で凹凸の世界に戻ろうと思う。

現実は声にならないものというか
(ただいま)
(晩飯食べちゃったよ)

Fin*

130611
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リゼ