甘いものが嫌いな君だけど

ステルクさんと結婚して3年が経つ。
その3年間も相変わらずアトリエは続けていて、その傍ら幼い頃からの夢だったパイ専門店も初めた。それなりに繁盛して忙しいが思ったよりも充実した毎日を続けている。
イクセくんとは料理対決を変わらずしているし、くーちゃんとは今だに討伐依頼をこなしていたり、アトリエを引き継いだ当初となんら変わりない生活だ。
それでもその間、師匠は一度も帰ってきていない。
アトリエよりパイ専門店の方が儲かっていることを知ったら怒るだろうか。それとも成り行きで結婚したことに怒るだろうか。何を探しても怒られる要素ばかりで、帰ってきたときのことを考えるとはらはらしてしまう。

そんな不安もありつつ、今日で結婚記念日を迎えた。

「ハニーパイできたー! 最高の出来!」
前日に最高級の小麦粉をたくさん用意しておいた甲斐があって、最高品質のパイがずらり出来上がった。いつもの作るものとこれっぽっちもレシピは変わらないけど、今日のパイはいつも以上に特別なのだ。
一番形の良いハニーパイを手に取った。重なるパイ生地から薄くはみ出た蜂蜜の宝石のような煌きと、ミルクバターの上品な甘い香りをいっぺんに味わってしまい、思わず食べそうになったところを唾を飲んで制す。
彼は美味しいと笑ってくれるだろうか、それとも甘すぎると困ったように笑うだろうか。
散々気合を入れて作ったパイの出来云々よりも、あの強面が少しだけ綻ぶ瞬間が世界中の何よりも大好きで、それを期待するだけで私も思わず笑みがこぼれた。

「ステルクさーん」
いつも起こされる側だけど、何度も言っている通り今日は特別なのだ。
ステルクさんの部屋の扉を勢いよく開ける。
アトリエの小さな空き部屋も3年たった今はすっかりステルクさん色に染まってしまった。多くはない家具の几帳面な配置に、申し訳程度な窓の側のベッド。
そんなベッドの上で朝日をいっぱいに受けた、輪郭が淡い栗色の髪が布団から覗いている。
「ステルクさん、朝ですよー!」
特別な日が、始まる。




甘いものが嫌いな君だけど
(甘くないのもありますよ)
(いや、せっかく君が作ったものだ)



































201805
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