芝居の最果て

こんな世界は嫌いだ大嫌いだと泣いて駄々をこねた言葉を並べるサヤに声をかけた。
「ーーーーー」
この台詞を皮切りに世界が陽炎めいて、ひらり鮮やかな色を溢しながら透けるようにラグナから遠ざかっていく。
俺のためにあった世界が、他の奴らのために廻り始めた、ただそれだけのことだ。世界を置き去りにしながら、ラグナはそう思って眩しく目を閉じた。
リビルドされた次の世界で唯一気掛かりなのはウサギの存在だけだが、それももう俺にはどうしようもない。


澄んだ空気に似合わぬ桜のような香りに気付き、醒めたラグナが次に見たのは、舞う細い葉と蒼い空。
「どうだい、世界に置き去りにされた……いいや、世界を置き去りにした気分は?」
新緑を落とした草原にも関わらず、からりと音を立てたぽっくり下駄。その音にも言葉を投げられるも声の主に見向きもしないラグナは、頭の後ろに組んで枕にしていた腕を解いた。少し右腕が痺れている。
「どうもこうも、なんでお前が俺を『観測れている』んだよ、世界に何か影響があるかも知れねえだろ」
ラグナは頑なに声の主の方を向かず、乱暴に空に投げかけた。とにかく誰でも『観測てしまう』とラグナがしてきたことが無に帰ってしまう。相互認識で成り立たせるのがシステムの理だからだ。
「俺もどうなってるのかさっぱりでねぇ。お前さんが『世界を置き去りにした』存在であることは認識できているんだが、何がどうして置き去りにしたか、お前さんの名前すらも浮かばないんで」
高いようで低いよう中世的な声を転がせて、理解し難い言葉をただつらつら重ねた声の主は、最後にまあいいやと手を打った。その自己解決の一連に少し苛立ちを覚えたラグナは、仰々しく溜息を吐く。
「何が言いたいのか解らねえけど、俺のことはもう放っておいてくれ」
そうかい、声の主はぽっくり下駄を鳴らして去っていった。同時に桜の香りも消える。

ラグナの目下にはカグツチが見える。知る由もない未来が彼の脳裏に浮かんではただ歪んで消えていった。
「さて、いくか」
何かを決意したラグナは、レイチェルが埋葬してくれた崩れ落ちそうなセラミックの剣を抜き、左にあるラグナ自身の枝を組んだだけの質素な墓を一瞥した。微かに甘い薔薇の香りがする。最初ラグナはこの脳を溶かすような甘い香りが気に食わなかったが、今では影絵みたいな彼女を追ってしまいそうになるくらい、ただ懐かしい。

夢を閉じた世界の悪であったラグナ=ザ=ブラッドエッジが自分のためじゃない世界を歩き始めたことに、祝福するようなどこまでも透けるような蒼い空である。

芝居の最果て
(ラグナ、咲いて散りゆく花になれたのかしら?)


18.04

有村竜太朗「魔似事」




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あとがき的なものは滅多に書かないのですが、日記みたいな感じで残しておきます。
以下少しのネタバレを含みます。

BLAZBLUEが漸く私の中で終結しました。
出会ったのが、アーケードに入り浸ってた学生時代。
あとは友人に小説を借りたり(記憶が定かではない)してなんとなーく知っていた程度だったのですが、先日PlayStation+でフリープレイを落としましたのが終結のキッカケでした。
なんとなーく知っていた程度では全く理解出来ず、Wikiや他の人の考察、友人にも連絡してやっと辿り着いたラストシーン。
泣きました、ええ泣きましたとも。

プロデューサー曰くの「蒼の物語をリビルドしたスピンオフ」主人公である黒鉄ナオトの世界線と本編のヴァルケンハインは何故繋がっていたか。
ラグナを弔ったレイチェルは「観測者としての力を失った筈」なのに何故ラグナを覚えている素振りなのか。
最後にとんでもねえ伏線?を撒いていきました。
プロデューサーは「続きはない」と断言していますが、アークさんの人気作でもあるので、多分最後ではないかと……思っています。続いてくれ。


ともかくラグナさんの行方が不服すぎて……、叶えばあのラストでレイチェルさんが覚えていて、新しい世界でもラグナさんが存在してたらなあーという雰囲気、今回の文章は自己満足で書き殴った感じです。
毎度のことながらテーマソングは有村竜太朗さんの「魔似事」でした。
「もしかしてBLAZBLUE知ってるんとちゃう?」って感じの歌詞と発売のタイミングでしたので、BLAZBLUEが完結してしまった人々に是非オススメしたいです。
「気がふれたような芝居」というフレーズがもう。

本文より長くなってしまいました。
ここまでお読み頂いた方、もしいらっしゃいましたらありがとうございます。
それではまた。

180422
千葉へ向かう電車の隅にて
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リゼ