雪月花

時は人間に構わず、どんどん進んでいく。
その過程で俺はバンドマンになり、大成せず夢破れてくたびれたサラリーマンになった。
高校を中退したあたりから、人生はがたがたと音をたて変わり続けた。今更感傷に浸ってもただ悲しいばかりなのだが。
社会人になって5年は経ったけれど、中身は若い頃とさほど変わっておらず、人間的成長なんか1ミリもしていない気がする。
こうして代わり映えしない日々を送っていると、あの不安定な毎日がどれだけ楽しくて輝いていたかとさえ思えてくるが、思い出は美化される法則のおかげでそう思えているのかもしれない。

「昔は楽しかったよねぇ」
組んでいたバンドメンバーの、ドラムだった日根が遠い目をして言った。
俺と日根の間にはファミレスのオムハヤシライスが、そんな過去のことなどどうでもよさそうに、きのことデミグラスソースのいい香りをほかほか振りまいている。
平日の深夜なので、客は数えるほどしかいない。静かな空間に日根の言葉が誰に遮られることもなく、がらんどうに響いた。

メンバーとは今だに、こうして飯を食ったり、酒を飲んだりと細々とした交流を続けている。
サラリーマンになれたのは俺と日根だけで、あとの2人は売れることを夢見てアンダーグラウンドで今だに活動し、そこそこ売れている……のだが、やはりインディーズバンドのCDセールスランキングに常に入っていた絶頂期に比べると、その輝きも微々たるものだ。
一方の俺は、過去の栄光にカラオケ印税という過去の産物を食い潰して、なんとなく過ごしている。
死ぬ理由もないから仕方なく代わり映えしない毎日を、ただ惰性に生き繰り返し、癖で発表もしない作曲をしする日々なのだ。
あ、そうだ作曲を続けていた。あれらをずぶずぶ腐らせるのはなんだかもったいなくないか?

「俺さあ、もう一度バンド始めようかな」
なんとなく口にした言葉だったが、目の前の日根が少し目を見開く。
ややあってから、日根は照れ臭そうにへらりと笑って、
「同じく俺も思ってた」
そう言った。同時に、街の明かりが落ちたように、飲みかけのコーヒーが光を受けて揺らめく。

高校を中退して、バンドを組みたいと日根に言った時に巻き戻されたような感覚だった。
あの頃と違って俺は随分老けてしまったけれど。



変わらない今を生きること
(ベースはどうするよ)
(xxのとこからサポート借りられねぇかな)

201803




























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