赤と朱


「あー、じっとしてるッスよ隊長」
「ははは☆ スマンな南雲、どうも大人しくするのは苦手でな」
またぬりなおしッス〜、南雲くんが殆どため息混じりに言った。ほぼ諦めている表情だ。
かれこれ南雲くんは隊長のマニキュアを30分は塗っている。校外の仕事ではないのでまだ準備には時間はあるが、ずっともだもだしている2人に少しだけ苛立ちすら覚えて始めていた。何か言ってやろうと言葉を考えると同時、準備室の扉がそろりと開く。
「失礼するでござる」
着替え中だったら悪いと思ったのだろうか、申し訳程度に俺たちの様子を覗き込んだ仙石くんは、しっかり深海先輩の腕を握っていた。濡れてないということは奇行に走る前に捕まえれたということだろう。
「えっまだ塗ってたでござるか? いい加減準備終わらせないと、衣装込みのリハーサル時間が短くなってしまうでござるよ」
流石にマイペースな仙石くんもこの状況に驚いている。言おうとしてくれたことを言ってくれて、ちょっとホッとした。
「もっと怒ってくれていいよ仙石くん……ほとんど隊長のじっとしてられない病気のせいだから」
メイクと衣装が特殊で時間がかかりそうだからって、本来衣装準備は隊長だけ先に終わってるはずだったのだ。
曲と今日の段取りはあんず先輩のおかげでなんとかなっていたが、準備やメイク、衣装の着付けなどは流星隊内でやってくれとのことで、右往左往していたのがついさっき。着替えと準備が早くても水浴びをしようと準備室から脱走する深海先輩、それを止める仙石くん。俺と南雲くんは大人しくできない隊長の着付けとメイク係。
今に始まったことではないが、もうちょっとふたりとも先輩らしくしてほしいとか思ってしまう。


「はい。これでなにがあっても最後っすよ、袖が長いから気をつけるッス」
「またまたばっちりだな! 感謝する!」
何度めかもう数えてない会話を横に、そろそろリハーサル室に行こうと腰を上げたとき、ちょとだけ隊長の視線に捕まってしまった。
「どうだ高峯、かっこいいだろう!」
目が合ったことを喜んで、だらしなく笑う隊長。目元の赤いチークが冗談抜きに、隊長の朱色に近い瞳とお揃いに並んで似合っていた。
でもかっこいいですとか素直に言ってしまうのもなんだか負けた気がして言葉に詰まってしまう。いつもと同じ距離で何気ない会話なのだろうけど、なぜか、こう、変に身構えてしまうから、こういういつもと違う時はそういうことを言わないで欲しい。
少し考えて、隊長のがっちり掴んでくる視線を振りほどいてから口を開く。
「そりゃあ、いつもよりかっこいいです……けど」
「そうだろうそうだろう☆ 高峯のメイクのおかげだな!」
この人はいつもそうだ、これで天然なのだから質が悪い。

真っ直ぐに褒められない、自身もとてつもなく嫌で、


鬱だ。
(昨日の映画なんスけど)
(な、なんのことだ……!?)



















































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リゼ