白に染まって

どうしても気になることがあって、真夜中に目が覚めてしまった。
枕元の携帯を見ると午前2時。電子的な眩しい光に目を細めると、ほんの少しだけあった眠気は綺麗に消えてしまう。
もう寝るのは諦めよう、ちょっとだけ溜息を吐いてカーテンをそっと捲り窓の外を覗いてみた。
大粒の雪が舞っている。
既に歩いた形跡が分かるぐらい積もっていて、街灯の光を落とした部分が橙色に色付いている以外はしんしんと色を無くしていた。
「……当日に渡せるかな」
この調子だと明日にはきっと街は白く染まり、事務所まで行くのが困難になってしまう。昨晩一生懸命作ったチョコレートが冷蔵庫で眠っているのに。
チョコは先週に愛梨ちゃんとあーでもないこーでもないと研究したレシピで、絶対美味しいガナッシュチョコの自信作だ。でも愛梨ちゃんはもっと凄いものを作ってるだろうし、昨日会ったまゆちゃんもラッピング含め相当気合が入っていたし、私なんかの無難なチョコはきっと印象の底に埋もれてしまうだろう。
そう思うとなんだか渡すのが億劫になってしまい、このまま雪が降り積もり家から出れなくなって事務所に向かえなくてもいいかなとか落ち込んでしまう。誰にでも優しいあの人は、今日はきっとみんなから受け取って平等に笑顔を振る舞うだろう。
「わたし、特別じゃないからね、」
えへへ、と力なく笑って、冷たい足を毛布に滑らせて寝転がる。天井が遠い。



「おはよう、卯月」
朝、すっかり雪はやんでいて、それでも雪をどっかり積んだ青の車の前にはあの人がいた。予想もしなかった出来事と、あまり休めなかった脳のせいで一瞬幻かと思いその場で固まってしまう。事務所には向かおうとしていたが、今日じゃなくてもいいかと後回したあの人宛の本命チョコは冷蔵庫の中だ。
どうしようと慌てた私に戸惑ったあの人は、目線を斜め下に揃えて頷く。
「凄い雪……だったからね、迎えに来たんだ。一人だけ特別扱いしちゃうとちひろさんとか、みんなに怒られちゃうし、内緒ね」
今日は特別、困ったように笑うのを見て今朝の悩みが一瞬でどうでも良くなった。あの人の言葉はいつも魔法のように私を明るくしてくれる。それが励ましであり、ここまでやってこれた理由でもある。その他大勢に埋もれてしまうのが嫌だなんて、私は凄く偉そうだ。そんなの気にしなくていいよね。
「あの、チョコレートあるんです。一番に渡したいので少し待ってて下さいね」
大好きです、プロデューサー。






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リゼ