『価値の国』

「こちらは100年間この街の一番大きなターミナル駅を支えてきた柱です。ついこの間、老朽化の問題でやむを得ず撤去しましたが、こうやって博物館に貴重な史料として保存しています」

目の前には所々塗装が剥がれ、サビが目立つ白い鉄製の柱が立っていた。博物館は天井が高いので、5メートルは優に超える柱も粛々と役割を未だに覚えているかのように構えている。
特別に入れてもらったモトラドのロムも、感嘆の声を上げた。
「仕事を終えた後もこうして人類に歴史を伝えるための役割があるのですね」
「そうです、歴史的価値もありますし未だに国民に愛されていますから」
博物館の学芸員は次の展示品も紹介する。フィリィはロムを少し押して次に進んだ。
博物館にはフィリィとロム、学芸員の他には誰もおらず、ただ静かなクラシック音楽だけが空気を彩っている。
「こちらは宝剣です」
柱と対照的にガラスケースに収められた宝剣は、透明で小さな宝石を散りばめた黒い鞘に金の柄と鍔を持っている。柄から伸びた装飾品の鎖と、その先に付いた大きめの真紅の宝石が鈍く光を反射していた。少し趣味が悪く見えるが、宝石単体の価値で見れば相当高価な代物だと伺える。フィリィが興味を持ったようで、目を輝かせて学芸員に勢い良く食いついた。
「この宝剣物凄く欲しい!」
言うと思いました、ロムが呆れた声で溜息を漏らす。
学芸員はフィリィを諭すように両手を振ると、
「本当に残念ですが、お譲りすることができません」
あまり残念な表情をせず首を振った。
「何か歴史的価値があるものなのですか」
ロムが残念そうに視線を落としたフィリィを横目にして、学芸員に模範的生徒のような質問をする。
「この剣は鍛えられて50年間一度も人を斬ったことがありません。そのような血肉に汚れていない剣はこの国中どこを探してもこの剣だけですので、宝剣として寄贈されました」
フィリィがここ一帯の興味を失い眠そうにし始めたが、構わない学芸員は淡々と説明を始める。
「そしてこちらは煉瓦です」
手のひらに導かれた先には、赤煉瓦が本来の3分の1の大きさで群青色のクッションに身を沈めていた。ほとんど石と変わらない大きさである。
「100年戦争で、唯一残った建物の一部です。先日、その建物が老朽で崩壊してしまいましたので煉瓦だけが保存されています」
「お聞きしますがその戦争とは何年前の出来事ですか」
「もう200年も昔になります。それでも当時は今と変わらないぐらい軍事が発達していたので、軍人が剣を振るって戦うなんて原始的なことは一切しませんでした」
質問をしたのはロムだが、学芸員の答えを聞いてフィリィが何か考えた素振りをした。
「次が、」
「あ、もう飽きたのでいいです。次の国でも観光します」
そう言ったフィリィは逃げるような速さでロムに跨り、エンジンを吹かすと首にかけていたゴーグルを掛けて学芸員に一礼する。
「お嬢様の無礼失礼致しました。156個の展示物、とても為になりました。機会があればまた伺います」
最後に喋ったのはロムだった。
エンジン音と大袈裟な排気ガスと一緒に学芸員も残し、フィリィは真っ直ぐに続く博物館の廊下を構わず走り抜けている。

外に出たフィリィは適当な木陰で一息つくと、ああと大きな溜息を吐いた。
「博物館自体が国は珍しいですよフィリィ様」
そうは言ってもねえ、フィリィは伸びをして首を傾げる。
宝剣以外全部ガラクタに見えるんだもん。




価値の国
戻る
リゼ