琥珀色、君と三日月、残らない。


「hideが死んだ時に全部一緒に終わったんだってー!」

ちーちゃんが居酒屋の机の上に空のグラスをいくつも並べて駄々を捏ね始める。それを見ていたハルカちゃんが、また始まったとばかりにまだ生暖かいおしぼりでちーちゃんの頬をビンタした。アオイが隅でちゅうちゅうオレンジジュースを眠たそうに吸っている。実にカオスな情景である。
「ちょっとちーちゃん呑みすぎでしょ、ハルカちゃん頼むよ恋人なんだから」
背伸びをしたのであろう、ハイボールにウイスキー系のカクテルばかり頼んでいたちーちゃんは、呑みが始まって30分もしないうちに潰れた。母親も元々アルコールに強くはなかったが、ここまで弱いとは思ってもいなかった。アオイはそんな姉の姿を気にも留めず、むしゃむしゃとデカイ唐揚げを頬張り始める。
「まだ恋人じゃないですから、ほんと何言ってんすかミヤさん」
いやだあ、ハルカちゃんが顔を赤くして床を叩いた。いや君まだってなに。
「本当座敷予約してよかったわ。ごめんね、うるさいでしょ」
横でストローの袋でリボンを作って遊んでいるアオイに話しかけると、アオイはジタバタしているちーちゃんの方を見て少し笑った。
「おねぇの感情的な姿が初めて見れて嬉しいよわたし」
そう言ってオレンジジュースを啜ったアオイの横顔はなんとなく大人びていて、あれからやっぱり数年が経ったんだと痛感してしまう。
この間、上ちゃんと今後の話をした時に同居している彼女と結婚するようなことを聞いて、俺は自身の今後が少し心配になった。別に有栖川さんを諦めて音楽に生きて音楽に死ぬ人生でも良いけれど、そこまで俺らのバンドって売れてないしなあ、とか考えてしまう。有栖川さんしっかりしてるし、俺なんかじゃ多分駄目だと思うんだ。
となると結婚の話まで持ち込めた上ちゃんは凄い人なのかもしれない。
「ハルカちゃん、上ちゃんが結婚するらしいんだけど」
「え、まじですか、バンギャ拾ったんすか」
「ちーちゃんと同じにしないでって。まあ元々ハルシオン結成前から付き合ってたらしいんだけどねえ」
上ちゃんには小説家の彼女がいる。しかも彼氏に本名を明かさず芸名で過ごしていたような少し変わっている女性だった。
「これってツイッターに書いたら怒られますよね」
「たぬき怖いから本当やめて、ハルカちゃんだから言ってるんだよ」
「そんなん怖がってたらキリがないですよ。しかも既にチロル加入時にミヤさんが頭を撫でたこともちゃんと叩かれてますし」
「え、叩かれてたんだ……」
「まあチロルは私のモノですけど」
バンギャルの怖さは昔から知っていたつもりだったけどもそこまで、恐ろしいものだとは思ってもいなく、気のせいか少し背筋がひんやりとした。恋は盲目というものに似ている。
ちーちゃんが13杯目のハイボールを頼むとハルカちゃんが時計を見て、そろそろお暇ですかぁと呟く。時刻は11時を過ぎ、そろそろ終電も逃してしまう。
「じゃあお先失礼するね、ちーちゃんよろしく」
「はいはい、おやすみです」
律儀に3万置いていった俺は、アオイの手を握って居酒屋のカウンターを抜けた。
夜風で少し乱れたパニエを正したアオイは、俺の顔を空の三日月と見比べて口を開く。生暖かい空気を孕んだ初夏の風がふわりと二人の間を抜けた。
「わたしも死んだらなにか一緒におわるの」
おわるのかなあ、うわごとのように呟いたアオイは歩き難そうにローファーを引き摺った。
わからないなあ、hideの場合は特殊だったし。


琥珀色、君と三日月、残らない。
(おねぇたち帰れたかな)
(そういえば2人とも泥酔だった)

Fin*
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リゼ