アブストラクトライフ

僕の好きな人はゴスロリ風俗嬢だ。
彼女のトレードマークは首筋の星形の自称傷。嫌なことがあれば翌日すぐに小さな星が増えるので、彼女にとってその自傷行為は存在意義を見出すものなのだろう。
あとそれとは別に困ったことがひとつ、彼女には一人の人間をずっと愛するということが出来ない。憂鬱を溶かすように交わっては息を吐くように恋をする。つまり彼女の恋愛観は狂っている。

「狂ってるとか」
切りそろえた目線深めの前髪を整えるように右手を額に当てた彼女は、ううと嘘っぽく唸って煙草の息を吐いた。
退勤後帰宅した彼女は食事そこそこに適当にテレビを点けて煙草を炙り、日給の茶封筒に入れられた1万円札を数えて魔法を解くのが日課である。パニエとジャンパースカート、ブラウスを脱いで最近新しくしたドラム式洗濯機に全て放り込んで回して、シャワーを浴びればリセットされたことになる、らしい。
「楽しければなんでもいーじゃん」
それが彼女のモットーである。僕はもう少し彼女に真っ当な人間として生きて欲しいのだが、ロココに心身共に感化されているので何を言っても彼女は彼女の生き方をやめたりはしない。言えば星空が広がるだけだ。
「あんたは気ままでいいよね」
彼女は僕に向かってどうしようもない言葉と煙草の煙を吐く。僕はその煙から逃げ、彼女を見上げてそうでもないと首を傾げた。
よく僕は良い意味でも悪い意味でも自由人と言われるけど、ただのうざったい穀潰しであることは重々承知しているつもりだ。それでも彼女の役には立ちたいとはつくづく思うが、彼女の気持ちがわからないから僕はなにもしてあげることが出来ない。彼女の首筋の宇宙も、なにがきっかけで産まれたのかすら、過剰装飾の手鏡を片手に痛々しくデザインカッターで星を刻む姿を眺めても、何一つ僕は彼女を知ることはできないのだ。
……ああただひとつ、僕は彼女も彼女を愛した人も知らないことを知っていた。
「ご飯は起きたら食べるね」
そう言って彼女は畳の部屋に似合わぬ天蓋付ベットに埋もれる。その数分後、眠ったはずの彼女の口から発せられる数々の意味のない言葉。
彼女は寝ると寝言がとてつもなくうるさい。
僕は楽しそうに寝ながら喋る彼女に寄り添い、額にパンチをして仕方なしににゃあと鳴いた。


アブストラクトライフ




3つのお題で文章
「寝言」「猫」「星」
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