春の兆し

外は快晴。日差しが強く淡い水色のレースのカーテンに白い日差しが繰り返し刺さり、春の始まりを感じさせるややしつこい熱を孕んだ風が部屋を吹き抜ける。絶好の引き籠り日和だ。

「あー、またまけた」
チロルは携帯ゲーム機をベッドに放り投げてバンザイの格好で床にうつ伏せで倒れ込んだ。無造作に伸び崩れたツートンでぼさぼさの金髪がモップみたいになっている。
「もっかい」
諦めたと思ったらベッドに投げ捨てた携帯ゲーム機を拾い上げて私に再戦を申し込んできた。別にいいけど、私は画面下の勝敗具合をちらりと確認して溜息を吐く。
「なんでそんなぷよぷよ弱いの」
チロル0勝の私18勝。ハンデも激甘と激辛でこれ以上付けられない状態である。
「ハルカが強いんだって……ドシロウトに15連鎖なんて仕掛けるかふつー」
「だってチロルの消し方ヨッシーのたまごなんだもん」
ヨッシーのたまごは2つ揃えれば消えるけどぷよぷよは4つだし連鎖も考えなきゃだし意地が悪い、チロルがぶつくさ悪態をついてる間私は5連鎖を組み上げてしまった。ここで崩したらまたチロルはモップになってしまう。あれ、そういえば。
「そういえばチロル前までピンクツートンだったよね」
チロルは右手で頭を掻きむしり、その際に指に絡まった金髪を眺めてああと頷いた。
「ピンク、飽きたから。あとツートンやりすぎて将来半分だけハゲになるからって2弦ベーシストが」
基本思考がバンドマンであるチロルは、私の目を一瞬見てやっぱりとゲーム機に視線を落とした。
「バンギャル的にはどうなの、『チロル』はピンクと金髪のツートンがイッパンテキなの」
「バンギャル的ねえ」
やっぱりバンギャル的に思えばピンクと金が『ハルシオンのチロル』ってイメージだけど、個人的には他の組み合わせも見てみたい。ハルシオンのリスペクトバンドのベーシストみたいな金黒ツートンでもいいと思う。
「僕はなんでもいいんだけど金髪一色だと味気ないかなあとおもって」
またまけた、うわの空だったチロルが私の16連鎖を食らってしまった。また勝ってしまった。
ゲーム機の蓋を閉じたチロルは背後にある全身鏡を肩越しに眺め、金髪も飽きたんだよなあと呟く。ぷよぷよの勝敗より髪の毛の色が気になり始めたらしい。
「ハルシオンのみんなは茶髪だったり黒髪だったりするから僕も黒にした方がいいのかもしれない」
チロルの地毛が金髪だからそれはちょっと勿体無い。個人的には黒と赤のツートンでもかわいいと思ったけど、チロルの場合髪が伸びれば金と黒と赤のスリートーンという意味がわからない組み合わせになってしまう。
「やっぱりチロルは金とピンクじゃない」
私はチロルの透けるような毛先を見て、その綺麗なキューティクルに少し嫉妬した。今まで何人の日本人バンドマンが黒髪を嫌って脱色しては毛根を殺してきたのであろう。
「ちょっと聞きたいんだけど、ハルカは何色がいいの」
バンギャルどうこうは置いておいて、チロルはそっと私の顔を見ると上目遣いがちに首を傾げた。チロルの好きにすればいいじゃない、そういう言葉を出しかけたがそれだとちょっと素っ気ない気がして既の所で止めた。彼女なんだしちょっと我儘言ってもいいかな。
「襟足だけ黒がいいかな」
チロルはそれイッパンテキなツートンじゃない、と小さく笑った。

春である。


(宮瀬さんデビューしたての頃、赤髪だったよ)
(なにそれきもい似合わないしバンドマンリスペクトし過ぎ)

Fin








































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