屋根裏の趣味

最近、チロルに謎の痣が増えた。首筋あたりに長細く青紫の斑点が見えたときは流石に心配になって、宮瀬さんをまず最初に疑った。私の可愛いチロルちゃんをスパルタコーチ並に棒とか鞭とかの凶器を使って殴っている図が簡単に浮かぶからだ。その上笑顔が素敵な人ほど腹黒だって、この間行った対バンでハルシオンと仲の良いバンドのボーカルも言っていた。あれは絶対に宮瀬さんのことを言っている。楽屋がある2階を指さしていたし。
痣がある当の本人のチロルはなにも言わないし、言えないだけかもしれないので私も無理な探索はできない。どうしたものか。

帰宅後、買ってきたコンビニ弁当を金曜ロードショーでも見ながら2人で食べている時だった。
「今朝借りてきた時効警察観てたんだけど」
逆手スプーンでオムライスを頬張りながらチロルが唐突に口を開いた。ハルシオンに加入してからかなりの時間が経ち、過去の曲もベースで弾けるようになって漸く自由になった彼女は、最近オフの日にドラマをツタヤから借りて観ている。
「趣味がないんだ、霧山くん」
端的で一瞬ではよく理解出来なかったが、流石私、愛で理解をした。どうやら時効警察に出てくる霧山と言う登場人物には趣味がないのだろう。
「それで僕も思ったんだけど」
チロルは喋り終えるとスプーンを置いて、グラスに注いであった麦茶を豪快に飲み干すと、間を開けてもったいぶる。テレビの中で小さい王蟲が体液を撒き散らしている。
「僕も趣味がないんだとおもう」
小首を傾げた。バンドは仕事だとして、ドラマを見ることはチロルにとって趣味ではないのだろうか。
「ドラマとかは趣味じゃないの?」
チロルは酸の水に足を突っ込む少女を見て、無表情で固まっている。
「霧山くんが言うには、趣味って熱中できなきゃダメらしい。僕がドラマを観ているのは単に暇潰し」
穀潰しの彼女は、王蟲の触手を見て美味そうと呟いた。確かに粉砂糖がかかったチュロスみたいで
「だから、」
今日はチロルがよく喋る。
「ヌンチャクはじめた」
痣の謎が解明した。
テレビで姫様が王蟲の群れに轢かれ、嘘みたいに宙を舞った時のことである。



屋根裏の趣味
(それで痣)
(この姫様、僕よりガッツある)
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