誰よりも強くなる為に――…否


ただ 誰よりも近付く為だけに――…!!!



意外性抜群の組み合わせ。

「お、蒼命!」
「ん、道徳!」

それは、今まさに食堂で声を掛け合った二人組の事であろう。

「今日もよろしく!」
「此方こそ!」

そう明るい笑顔でグッと拳を向け合う二人を遠目に、食堂の机に渋い顔を密集させる仙道達はその方をチラチラと見ながらコソコソと話し合う。

「いやぁ、まさかコーチと蒼命があんなに仲良くなるとは……」
「二人が爽やか過ぎて、下心の有無が分からない……」
「でも、お互いを認め合ってるのはよく分かるね……」
「………」

そうヒソヒソと意見を交わし合う天化、楊ゼン、普賢に対し、机に肘を突いて掌に頬を乗せ、一人無言・無表情を貫くのは太公望。

「で、どうなんさね。あれは、二人はもしかして……」
「いや、まさか……」
「全然分からないなぁ……」
「………」

想い人相手に冷静に分析できる周囲すら、妬ましい。自分には、その余裕すら無いというに。

「今日は何時までやる?」
「そうだね、天化は自主修行だから、体力が続くところまで!」
「ん、了解!」
「じゃあまた後で!」

二人が楽しそうに話しているのが、全く面白くない。かといって、二人には特別な関係があるようで無さそうだから、変に介入すると自分が嫌われるという最悪な展開になりかねない。会話の内容を穿った目で見れば、かなり問題も多いが、いや、しかし深意が全く分からない。
さて、どうしたものか――…。

「……よし」

取り敢えず、状況確認が先決だ。
フル稼働させた脳でそう判断した稀代の策士は立ち上がり、驚く三人を尻目に道徳と別れて机に座った蒼命の元へ歩み寄る。

「……蒼命」
「あ、おはよう、太公望!」
「うむ」

この鈍感者に、遠回しに何かを訊くのは通用しない。

「……最近、えらく道徳と一緒だのう?」

……と思いつつ、少し皮肉を入れた程度になってしまった。弱腰の自分が情けないが、蒼命は皮肉も気にせずニコッと笑った。

「ああ、一緒に修行しているから」
「修行?」
「ん、何だか今までの修行じゃ物足りなくて、道徳に新しい修行方法を教えてもらっていたら、何か意気投合しちゃったんだ!」

何か意気投合……その内容も程度も分からず……いやいや単なる修行なのだから、特に深い意味も特別な関係も無い訳で――。

「……何だか、尊敬するな」
「……へ?」
「あの強さに対する姿勢とか、意欲とか――…」
「………」

そう感心した風に呟き、ふっと口端に柔らかい微笑を浮かべる。それはさながら尊敬以上に、敬愛の意が込められているようにも見えて。

「………」

尊敬と恋愛は同義語だと、前に蝉玉辺りがのたまっていた事があるが……マズい、状況確認どころか、泥沼にハマった気がする。
……こうなったら、背に腹は換えられない。

「――…今日の修行、わしも参加して良いか?」
「へ?だって太公望、修行とか嫌いでしょ?」
「うっ……!」

蒼命の鋭い一言に、ギクリと身が強張った。まぁ確かに修行というものは昔から苦手で、よく元始天尊の目を盗んではサボっていたものだが――。

「いや、しかしだな、わしも、強くならねばのう?」
「もうそんな大きな戦いは無いと思うけど……」
「じゃあおぬしらは何故修行をするのだ?」
「それは、私は自己管理というか――」
「それと同じだ!!」
「でも、道徳は『マル秘修行』って言ってたんだけど……」

――ま、『マル秘』!!?聞き捨てならない怪しさと特別感に、太公望の問いに熱が入る。

「……何だ、隠さねばならんような内容なのか?」
「いや、別に普通の修行だけど……まぁ『マル秘』と言っても絶対誰にも言うなって言われた訳じゃないから、大丈夫かな……」
「ならば大丈夫だ!!」
「んー……」

口八丁手八丁でどうにかこうにか言いくるめ、しかし了承の言葉を蒼命が言い淀んだのが決定打となった。

「――とにかく、わしも絶対に参加するからな!!!」
「……ん、じゃあ朝食を食べ終わったら、一緒に行こっか」
「うむ、後でのう」

そう約束を取り付けて一旦戻ると、青褪めた三人が異物を見るような眼差しで此方をジーッと見つめていた。

「……スース、まさかコーチ達の修行に参加するさ?」
「うむ」
「……あの二人の修行ですよ?」
「うむ」
「望ちゃん、凄いチャレンジャーだね……」
「……うむ」

自分でも段々と危ない感じがしてきたが、それでももう乗り掛かった船、今更引き返しはしない。

動かなければ、始まらない。

皆と同じように見ていては、特別な関係にはなれない。


出来る事は、やらなければ――…!!!


朝食を終え、食後の散歩のように和やかに蒼命と歩いて辿り着いた岩場では、既に道徳がシャドーボクシングをして身体を温めていた。

「――お、蒼命!太公望も!」
「おう、道徳。今日はわしも参加させてもらうぞ」

牽制するようにジロッと見れば、しかし道徳はギラッと笑顔に力を込めた。その気合いにうっと太公望は引き下がったが、ガシッと肩を掴まれ、まさに退路を断たれた気分になる。

「……太公望も、僕らの『マル秘修行』をやるのかい?」
「う、うむ」

道徳には珍しいニヤリとした笑いに一瞬引き攣ったが、此処は負けじとしっかり頷く。と、途端に道徳は破顔一笑、肩をバシバシ叩きながら目映いばかりの笑顔を見せた。

「太公望は日頃スポーツから遠い気がするから、しごきがいがあるなぁ!!今日も頑張ろう!!!」
「……し、しごき?いや、普通の修行では――!?」
「今日も張り切っていくぞ!!蒼命、太公望!!!」
「ん!」
「………」

スポーツ!!!と天に向かってビシッと突き付けられたグローブに、同じポーズを決める蒼命の横、そんな二人の爽やかキラキラオーラを一身に浴び、太公望の顔から血の気が引いた。


……いや、蒼命は普通に可愛いが、道徳の、この異常なまでのヤル気が……何だか、嫌な予感がする……のう。

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