兎と狼(2/2)
安藤優汰。同じクラスの男の子。名前に似合わない凶悪な顔をしていて、口も悪い。
彼の実家は名のある極道だとか、小学校の頃に人を殺して、最近まで警察のお世話になっていたとか……。とにかく、悪い噂の絶えない人だ。
ちなみに2つ目の噂が嘘なのは知っている。だって小・中・高と同じ学校なのだ。クラスが同じになったのは初めてだけど。1つ目については知らない。私は基本的に他人には興味がないのだ。
彼にはあだ名もたくさんある。「人殺し」、「殺人鬼」etc...確か「暗黒皇帝」というものもあったかな?ゲームかよ!って思ったのを覚えている。
噂にせよあだ名にせよ、良いものなど1つもない。そんな彼が―――
「す、鈴木!?」
怪我した動物を助けようとして、腕を噛まれながら(血が出てる)、必死に治療している。しかも、私に見られたのが恥ずかしいのか、顔が真っ赤だ。
「ぶふっ!!」
そんな彼を見て、どうして笑わずにいられようか。
「鈴木、テメェ、何笑って……!」
ぱっと見は凄く、それこそ三日三晩悪夢に魘されそうなほど恐ろしい顔だ。でも―――
「そんな真っ赤な顔で言われても……。安藤くんって意外と可愛いね。」
「かっ……!!」
私の言葉に真っ赤になる安藤くんに、むくむくと欲が沸き起こる。
欲しい―――――。
今まで白黒だった世界が鮮やかに色付く。
「ねえ安藤くん、手伝おっか?」
にっこり。いつもの作り物とは違う、本物の笑顔。
「………………頼む。」
これが私と彼の、初めての会話。
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