12
「チッ……流石に深いな…。」
足を踏み入れる度に葉の生い茂るジャングルは不気味さを増すばかりだ。
「……大分奥まで来たか?」
そのわりには目標のトラどころか、余り獣に出くわさない。
木の十本や二十本切り倒せば向こうから出迎えてくれるだろうか。
対に暴行が頭の中を掠めはじめたと同時に水音が聞こえた。
「…泉か?」
ちょうどいい。この日光に加え苛々が募って悲鳴を上げはじめたこの身体を労るのにちょうど良い。
手で掬い水を口に押し込めば内側から潤いが満ちる。
バシャ………
「………?」
俺以外の場所から水音が聞こえた。
さっきみたいに水を掬ったような、そんな小さな音ではない。
もっと大きな、そう、水浴びの規模の大きさだ。
大きな魚か何かが泳いでいるのか?
「(だとしたらちょうどいいな。)」
ベポ達に食糧調達もしてきてやる、と宣言してしまったのだ。
トラの他の目的をひとつここで達成してしまおうではないか。
そこまで遠くで聞こえた訳ではない。気配を消して近くの岩場まで足を運ぶ。
「………よい………好きそ……な…。」
『……うれ……ない…………………。』
「(話し声…?)」
この無人島に自分達以外の人間がいるというのか。
それにしても船の面影も人気も皆無に近かった筈。
警戒を怠らず、岩場の影から声の持ち主を探る。
「(女……とあれは猫か?)」
腰まで水に浸かった女が金色に近い猫を抱いているようだ。
しかし声は2つした。
あの女達以外にも人は存在するのか?
一瞬あの猫がこっちを見たような気がした。
「なんだ、まだ………か。」
いや、こっちを見たのは気のせいだったか。
というかもうひとつの声はあの猫か。
喋るトラの噂は聞いたが喋る猫の話は聞いていない。もしかしてここに住む動物は皆喋るのか?
「これから………。」
『とり……ず…。』
段々とこっちに近づいてくるようだ。
そしてまた猫と目があった。
(白い肌に黒髪がよく映えた彼女は一瞬天使かと思った)