荒ぶる兎とパンツレボリューションA

翌朝、二日酔いの頭を引きずりながら会社に行くとバニーはすでに出社していた。
はよ、と欠伸混じりに挨拶すりといつもの敬語で返事が聞こえた。

「あー、昨日は悪かったな。俺もさ、酒が入ってて大人気なかったわ」
「いえそんな、謝らないで下さい。ちゃんと対価は頂きましたしたから」
「ええ。あなたの下着とシャツ、ネクタイ、ズボン、ベルト」
「はああっ!? バニー覚えてたの!?」

思わず椅子から立ち上がって言うと「当然です。あなたじゃないんだから忘れるわけないでしょう」とツンツンした答えが返ってくる。
つ、つまり、つまりだ。
昨日のアレは悪ふざけでも悪酔いでもなくて、ガチの…。

「おまえなぁぁ」

がたん、と力が抜けて椅子に座ると、バニーは眉根を寄せて変な顔をした。
それからPCを操作し、ディスプレイをデスクトップに切り替える。
余りの驚きに言葉も出ない俺だが、その画面は少々違和感を感じて凝視した。
昨日まで内蔵の青い画面そのままだったのに、そこには何やらスーツを着た男が映っている。
灰色で細いストライプが入ったそれを着た奴は、尻をこっちに向けて下にある何かを取ろうとしていた。
しかもぴちりと腰のラインを浮き立たせたスーツの男は、パンツの線をくっきり見せているではないか。明らかにブーメランかビキニタイプだと解るそのラインに、俺は声にならないほど驚愕に頭が真っ白になる。

「おま、そ、それ」
「ああ…よく撮れてるでしょう」
「消せッ! なにしてんだよおまえはぁ!」
「嫌ですよ。何でそんなことしなくちゃいけないんですか」
「それ俺だろ! 盗撮は犯罪なんだぞ!」
「確かにこれは昨日のあなたですが、顔は見えてないじゃないからいいじゃないですか」
「盗撮魔はみーんなそう言うの!」
「僕は盗撮魔じゃないです! 正々堂々撮りました」
「そういう問題じゃない!」
「あら何、アンタらまたケンカ? 朝っぱらからやめて頂戴」
「ぐ…っ」

トイレにでも行ってきたのであろう経理のおばちゃんが入ってきたことで、俺はぐっと色々なものを飲み込んだ。
こいつと出会って半年余り…育て方を間違えた…!

「安心して下さい。この素晴らしい写真は自分用ですから」

なぁにが安心だ。
おまえ、自分用って一体何に使う気なんだ。
隣のスタイリッシュスマートセレブ、バーナビー・ブルックス・Jr.は耳打ちでもするように小さく言って、再びPCに向かい始める。
オイオイ勘弁してくれよ。
俺は頭を抱えながら、奴の家にあるであろう俺の服一式の運命にそっと同情する。


――だが、この兎の暴走はこれだけに止まらなかった。それはまた、別の話ではあるが。






おわり
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