暗い罠(沖近)

「好きですよ」

え、と近藤さんの目のいろが変わる。
いつもの冗談じゃないってことを、この危機的な態勢から悟ったらしい。
まあ、こんなシチュエーションでなきゃ逃げ道を作ってはぐらかしちまうあんたには、ちょうどいい告白だと思う。

「そう、」
「好きです」

畳み掛けるように言って、顔を近付けた。
剃り残しの短い髭まではっきり見える。
まして本当は女に興味なんかないことも、この俺が、俺の心と体が欲しいことも。

「…全部お見通しでさァ」

くくっと笑ってそう言えば、顔を赤くさせて俺の名を力強く呼ぶ。

「総悟!」
「おや、何ムキになってんでィ。ほんとのことじゃねーか」
「何に影響されたか知らんが、悪ふざけは」「悪ふざけ?」

ふざけんてのはあんたの方でしょうに。
手首を掴む力を強くして、俺は笑った。

「何を勝手に諦めようとしてんですか。せっかく待ってやってたのに」
「……っ」

体がを瞬にして強張らせた近藤さんの、俺を見る目は明らかに怯えている。
それでいいんだ。あんたがそれで俺に縛られんなら、恐怖でもなんでも構わない。

「だっておまえは」
「近藤さん」

きっとあんたは見たことなんかねぇ、男としての俺の顔で見つめる。
はっとしたように目を見開いた近藤さんに、次は顔を少し近付けた。太い睫毛に縁取られた瞳が揺れて、口が「そうご」とだけ動く。

「あんたは怖がってるだけなんでさァ。いつか俺が、あんたを見なくなるんじゃねぇかって」

近藤さんの唇がきゅっと結ばれる。
恋に臆病で愛されることに慣れていない、可愛いあんただからこそ、俺が愛してやりたい。奪ってやりたい。
くたりと力の抜けた腕から左手を離し、そっと頬を撫でた。熱い肌は少しだけ震えたが、抵抗なく俺を受け入れる。

「ずっと弟みたいに思ってたのに」

苦しそうに言った近藤さんの目から涙が零れた。
それが俺にはひどく神聖に思えて、肌を伝う雫を舐めとる。

「もう諦めな。俺みてぇなガキを作り出しちまったあんたの責任だ」
「…総悟」

俺を見つめる熱っぽい瞳。
そうだ、そのまま落ちてくればいい。

「俺で…いいの?」

怯えを含んだ掠れた声が今更なことを言うものだから、減らない口は閉じてやった。
かさついた弾力のある唇は、まるで元々俺と合わさるために作り上げられたかのようにしっくり馴染む。

「俺ァあんたがいいんでさァ」
「き、キス、した」
「もっとすげぇこともしますか?」

にやりと笑って言うと瞬時に顔を赤くした近藤さん。
もう可愛くてどうしようもなくて、俺はまたキスをした。
ん、ん、と気持ち良さそうな声はいつか覗いた自慰のそれに似ていて、俺の興奮は更に高まっていく。

「そ、ぅご…」

もう逃しゃしねぇ。誰にも渡さねぇ。
あんたが泣いてすがっても、絶対に離さねぇから。

「覚悟しな、近藤さん」

俺に愛されたのが、運の尽き。





おわり
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