相棒だから
「今日、ですね……」
はらはらと舞い落ちる花弁を思わせる粉雪。白く儚いそれを見ながら、ラケシスが呟いた。彼女が何を言いたいのか分からぬノルンではない。
グフェルズについて、だろう。彼は今日、『聖人』となる。それは聖人であれば、誰もが通った道だ。ノルンやハロルドは勿論のこと、アルノルドだって。
「そうね……。でも決めたから。シグを支えるって。きっとこれからも迷って、不安になるかもしれない。それでも私はシグの相棒だから」
視線を窓からラケシスに戻し、誓うように言う。迷いはない。全力でシグフェルズを支えるつもりだった。これから先について不安が無い訳ではない。後悔するかもしれないし、時には迷うこともあるだろう。
けれど、彼から離れるという選択肢だけは存在しない。ノルンの相棒はシグフェルズ以外あり得ないのだ。
「その意気だよ。ノルンならきっと、シグフェルズさんの支えになれる。わたしやクロトも力になるから。……さて、そろそろ行きましょう。私なら大丈夫だから」
自分を励まそうとしてくれる彼女に、ありがとう、と微笑む。いくらか素直に言えるようになった、ありがとう。
支えてくれる人がいる。それだけで人は強くなれるのだ。現にラケシスだって。以前の彼女なら、決して口にしなかった言葉。“わたしも”力になる。
大丈夫だと言い聞かせて、部屋を出ようとする。その直後、扉を叩く音がした。恐らく、クロトが迎えに来たのだろう。ラケシスを大切にしているのは分かるが、彼の場合、もう少しそれを表に出すべきではないか。もっとも、それを口に出すほど野暮ではないが。
「はーい。行こう、ノルン」
「ええ」
ラケシスに続いて歩き出す。彼女が扉を開けると、“白”が視界に飛び込んで来た。それは訪問者が儀式用の聖衣を纏っているからだろう。
姿を現したのはやはりクロトだった。耳飾りだけは普段と変わらないが、ノルンやラケシス同様、白い聖衣姿だ。
こうしてみると、整った顔立ちも相まって、悔しいが似合っている。薄い灰色の髪は雪のようだし、瞳も光を浴びた薄氷を彷彿とさせた。これで愛想がもう少し良ければ、女性に大人気だろう。
「文句があるなら言え。どうせ似合わないだろう」
「別に似合わないなんて、一言も言ってないじゃない」
クロトの視線はラケシスではなく、ノルンに向いている。しかも文句とは何なのか。似合わないなど一言も言っていないというのに。
ラケシスは二人を見てあたふたしている。何ともしがたい空気が流れる中、誰かがクロトの後ろから顔を見せた。琥珀色の髪に紅茶色の瞳を持つ少年。なんとシグフェルズだったのだ。
「二人とも、今日は聖誕祭なんだから、そのくらいに」
「シグ!」
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