忘却の道化 スペード→ジョット されど表記は誤りを



愛と憎しみの交差、気づかなければ良かった。沈めて、沈めて、想い、焦がれ、また沈め。矛盾した心に真実は痛みを産むだけ、だから。


ーーねえ、私はどれだけ貴方を想えばいいのですか?貴方の瞳に映るものが何か知りながらも貴方を想えと?オレの心だけはやるーーなんて、愛と心は別物ですか?家族を愛することは許してほしい、なんて。狡い人。そう詰ったら“お前だって愛する者がいるじゃないか“と困った笑みで返された。言い掛かりも甚だしいを通り越して呆れる。私にはそんなものいませんよ。何の冗談ですか何の。冷たく嘲れば“ああお前は忘れたからな“と一人納得して。不愉快な。記憶力は良い方なんですよ。貴方だって知っているでしょう?私が何を忘れたと言うんです?衝動的に貴方の肩を掴んでも取り繕った笑みは崩れない。このまま圧し折れたらいいのに……憎らしい。心だけはやると言いながらソレは嘘で塗り固められたものでしかない。私を馬鹿にしているんですか?何故そんなに哀しげな眼差しで見つめるんですか?哀しげ?憐れみ?貴方の手が私の頬にそっと添えられる。瞳が細められる。


受け止め切れない慈しみを感じーー…自分でもわからない何かがそれを拒絶した。突き飛ばした身体は何の抵抗もなく壁に衝突する。打った背中の痛みに僅かに歪む貴方の表情。


わからない、わからない。私は……今、何をしたのですか……?貴方を拒絶した?何よりも誰よりも貴方を求めている私が?“…忘れ去ったわけではないようだな“ぽつり、漏らされた言葉はひどく重たげ。貴方は何を知っている?焦燥が募るのは何故?



一瞬の目眩に、脳内が揺れた。鼓膜を揺さぶるのは確かに在ったはずの柔らかな声、瞳に映る幻想は世界で一番美しかった光ーー。



「エレナ……」





記憶の深淵に沈めた名。“漸く思い出したか“と奪った者の瞳(め)は告げていた。











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あきゅろす。
リゼ