空に絆されて堕ちた羽根 アラウディ×ジョット アニメ初代編捏造


辺りが静けさに包み込まれた星空の下で、アラウディは並盛中学校の屋上に立っていた。
何か考え事をしているのか、眉間には皺が刻まれている。
時折空を仰ぎ、淡く輝く星に手を伸ばす仕草は、届かないものへの憧れにも見えた。



「――次はお前の番だな、アラウディ」



橙色の炎に包まれて現われたボンゴレI世ジョットは、マントを纏ったまま冷静に告げる。
鋭く射抜く真剣な眼差しは、子孫達の未来を本気で案じているのだろう。
全員の継承を認めたくて仕方がないのだ、新たな力を授けるためにも。


「……プリーモ」

「様子はどうだ?」


誰の、とは聞かない。
全てを見通す眼を使って見えるのは、アラウディが試練を与えるべき当代雲の守護者……雲雀恭弥。
風紀の仕事が終わらないのか、彼はずっと書類の手続きを黙々とこなしている。
ジョットはその様子を見て、お前にそっくりだ、と愉しそうに笑った。
張り詰めた空気が一気に解かれたのを肌で感じると、アラウディはいくらか穏やかに話を続ける。


「継承の試練が戦闘でないと知ってからやる気を無くしてる。本当に自由気儘な子供だね」


何気なく返した答えだったが、ジョットは複雑そうに目を細めた。
できる限り子孫達の力になってやりたい……創始者の想いがひしひしと伝わってくる。
アラウディはそれから目を背け、ふわりと宙に浮かぶと窓から校舎内が見える所まで移動した。
視線の先は、雲雀が仕事を進めている応接室だ。


「……無理そうか?」


追い掛けてきたジョットは、僅かに声のトーンを落として問う。
苛立ちを感じたアラウディは、慰めなど一切ない厳しい口調で、見込みはないだろうね、と答えた。
途端、ジョットの表情が曇ったものになる。


「……お前が言うのだから、そうなんだろうな」

「全ては彼次第だよ。デーチモを護る気があるなら……といっても、僕には関係ないしね。継承できようができまいが興味ないな」


くるりと背を向けて、アラウディはまたも空を仰ぐ。懇願にも似た、とめどなく沸き上がる渇望。
それは決して掴めない――否、堕とされたのか。


「ふふっ」

「なに?」


唐突に笑みを零したジョットに、アラウディは不機嫌な顔をして向き直った。
ジョットは自分の守護者を真直ぐ見据え、お前は嘘が下手だ、と駄目押しをして屋上へと戻る。



「――継承させたくない、の間違いじゃないのか?」


よく通る高らかな声は、距離を置いても一字一句間違えずに聞き取れた。
辺りの空気が震えたと同時に、執務室で作業をしていた雲雀は顔を上げる。
野性的直感が何かを察知したのだろう。
雲雀は椅子から立ち上がると、勢い良く窓を開けた。
しかし、見渡しても何処にも人影はない。
気のせいか、と呟いた雲雀は窓を閉めた。
ところが机には向かわず、ソファに掛けていた学ランを羽織ると電気を消す。
念の為、校内の見回りでもするのだろう。


「ふっ、さすがはお前の後を継ぐだけあるな。姿を消していなかったらバレていたぞ、アラウディ」


揶揄する口調で忠告を示したジョットに癪が障ったらしく、アラウディは屋上へと戻った。
忌々しさと恨めしさを孕んだ眼は、とても守護者とは思えない。



「最悪な力だね、その血は。君の存在が、僕にとっては殺したいほど迷惑だったって知ってた?」

「ああ、それでもお前はオレを護り生かした」

「誰かの手で死なれるのも腹が立つ。君の澄ました顔を歪めるのは僕だけでいい」

「ほう、見かけによらず狂暴なんだな」

「君が僕をそうしたんだろ。大空は皆、土足で人の領域を侵すのが好きなんじゃないか」

「それは……デーチモへの非難だけでなく、雲雀恭弥への哀れみもあるのか?」



連続した会話の中で飛び出した二つの名前に、アラウディはふいっと顔を背ける。
唇が戦慄いていたのは、目の錯覚とも思えるぐらい些細で。


「彼等は僕達によく似ている。疎ましいぐらいに。だから嫌いだ」

「……言っておくが、好き嫌いで継承の合否を決めるなよ」

「誰に言ってるわけ? 己の正義に背くことはしないよ」

「……それならいい。ランポウの時みたいになる「君さ、いい加減に黙りなよ。それと」



僕と二人でいる時ぐらいは義務を忘れてよね、とアラウディは小さく呟いた。
ジョットがそれを呑み、恋人の顔で抱きしめたのは言うまでもない――。







fin


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