愉快な愉快なある日の珍事件 2


ボンゴレ本部に着いた紅葉とShitt-p!は、無人の廊下を駆け(飛び)抜ける。
炎真は別行動を取っていたため、一緒ではなかった。
建物内は閑散としており、壁のあちこちには亀裂が入っている。
しかし襲撃を受けたという感じではなく、負傷者や死体の山も見当たらない。
さすがに不審に思ったのか、二人は動きを止めて顔を見合わせた。


「……ねえ、どういうことだろ」

「わからん。だが人の気配もしないのでは「うおおおおぉぉぉ――っ!!」

「「っ!?」」


紅葉の台詞を遮るかのように、けたたましい奇声が響き渡る。
二人のすぐ目の前にあるドアの奧から発せられたようだ。
聞き覚えのある馬鹿の声に、紅葉はドアに拳で渾身の一撃を食らわせる。


「了平!!」

「てめえっドア壊しやがったな!!」

「獄寺君!」


椅子から立ち上がって怒鳴る獄寺を見つけ、Shitt-p!は嬉しさのあまり勢い良く抱きついた。
突然の行為に、獄寺は目を丸くする。


「うわっ、えっ、Shitt……いや、しとぴっちゃん!?」

「無事でよかった〜って、おでこ怪我したの!?」


安堵した表情から一転して、Shitt-p!は心配そうな顔をする。
獄寺の額には包帯が巻かれており、少しだけ血も滲んでいた。
しかしそれを指摘された獄寺は、ばつが悪そうな顔をしたまま何も言わない。
シモンが何故此処に……と一瞬思ったが、その原因が自分にあることを賢い彼は悟ったのだろう。
不自然な電話の切り方をしたことを思い出し、どう切り抜けようか頭の中で言葉を探す。
そんな中紅葉は、机に突っ伏している晴の守護者――笹川了平へと近づいた。
机上も周囲も書類が散乱し、ひどい有様になっている。


「おい、了平! お前は結局何をしてるんだ?」

「……」

「おいっ……了平!?」


紅葉は思わず声を荒げた。
了平の身体がバランスを崩し、机からズレ落ちて床に倒れたからだ。
その衝撃で獄寺の机上にある書類の束まで落下し、挙げ句の果てにインク瓶まで零れてしまう。


「ぐわあああぁぁ――ってめえこの芝生頭ッ! 人の仕事を増やすんじゃねえっ!!」

「獄寺君……?」

「結局何がどうなってるのだ?」


再び怒鳴り散らすブチ切れ状態の獄寺に、二人はますます首を傾げる。
ただ一つわかったのは、襲撃を受けたわけではなさそうということ。
了平は気を失っているらしく、微動だにしないが……。
二人の視線を受けて、もう縋るしかないと観念したのだろう。
獄寺はげんなりとした様子で口を開く。
――それから十分後、あまりの馬鹿らしさに力が抜けた紅葉と、獄寺から離れて怒りを露にしたShitt-p!がいた。


「はぁ……結局くだらなすぎる」

「ひどい! その怪我、沢田綱吉がやったの!?」


それぞれの反応を見せる二人。
獄寺の話を要約すると、仕事が立て続けに入って炎真に半年近く会えなかった沢田が、我慢の限界を通り越してヒステリックになったらしい。
守護者達はそのとばっちりを受け、約一ヵ月間地獄のような日々が続いているのだとか。
獄寺の額の怪我は、あの時電話しているところを沢田に見つかり、X BURNERを食らったためだった。
咄嗟にガードして衝撃を軟らげたが、さすがに無傷では済まなかったらしい。
まあ沢田も手加減はしていた……だろうが。


「そこの芝生頭は一日中デスクワーク三昧。トレーニングも禁止されてストレス溜まりまくってんだよ」

「ふん、了平の軟弱者め。デスクワークぐらい楽にこなさんか」

「……紅葉には言われたくないと思うなぁ」


Shitt-p!の呟きに、紅葉は大きく咳払いをする。


「それで、貴様は何故そんなに疲れた顔をしているんだ? まさか了平と同じデスクワークで……ぶっ!!」


小馬鹿にしたように言葉を並べ立てる紅葉の顔面に、獄寺は書類の束を思い切りぶつけた。
やり返そうとした紅葉だったが、獄寺は無言で睨みを利かせて書類を顎で示す。
何が言いたいんだと一応目を通せば、紙面を埋め尽くす数字の羅列に紅葉はくらりと目眩がした。


「こ、れは……」

「各部隊の予算やアジトの修繕費とか、そういった会計全部を芝生頭が計算してんだよ! 当然計算の九割以上は間違いやがるからオレがやり直す羽目、つまりは二度手間になんだよわかったか馬鹿野郎ッ!!」

「獄寺君、落ち着いて」


今にも血管が切れそうな獄寺を、Shitt-p!は心配して宥める。
十代目の命令がなきゃオレ一人で終わらせるのに……と愚痴る獄寺は、相当やつれている気がした。


「ふ、ふんっ。だが貴様なら計算ぐらい楽に「鬱憤溜まった守護者達がアジトを破壊して仕事増やしやがるからな……」


もはや怒る気力もないのか、獄寺は遠い目をして呟く。
ここに来るまでに見た壁の亀裂は、それが原因なのだろう。
よく見れば、獄寺の目は真っ赤に充血して悲鳴をあげていた。
睡眠もろくに取れていないことは一目でわかる。


「とにかく少し寝た方がいいよ獄寺君!」

「……仕方ない。沢田のことは僕たちが炎真に話しておいてやろう」


さすがに不憫に思ったのか、紅葉が珍しく助け船を出す。
それを聞いた獄寺はチッと舌打ちをするも、ふらふらと歩いてソファーに倒れこめば意識を飛ばしてしまった。
Shitt-p!はふるふると肩を震わせ、怒りに燃えて紅葉を見る。


「紅葉、ボスを捜そう! で、沢田綱吉を叱ってもらうのっ!」

「確かにその方が良さそうだな」


紅葉もまた決意を固め、二人は炎真を捜すために部屋から飛び出した。



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