愉快な愉快なある日の珍事件 1 炎綱10年後捏造


フリリク→『ツナの独占欲が爆発してキレる話』です。多人数は馴れないので未熟な面が山程……キャラの口調とかもまだ全然掴めてない、です。すみません。もっと精進します。

















★★★★★★★★★★★




――ドン・ボンゴレ沢田綱吉、ドン・シモン古里炎真。
この二人は互いにファミリーのボスでありながら、恋人同士というものに括られる。
幹部達の中では周知の事実となっており、誰も反対の声をあげる者はいなかった。
しかしそれは現在がそうであるというだけで、当初は様々な問題が起こったものだ。
両ファミリーの守護者達が乱闘を繰り広げたことも記憶に懐かしい。
尤も、この二人の関係に強く反対していたのは、嵐と氷河。
つまりはボスの右腕たる存在達だ。
雲は好戦的な性格、晴と森は熱血同士という点で戦闘に加わっていただけで。
他の守護者達は、自分に直接関係がなければ成り行きをただ見守るというスタンスを取っていた。
――結局、七日七晩という不眠不休の苛酷な戦闘に終止符が打たれたのは……



『炎真君っ! オレと結婚しよっ!!』

『え……あ、うん』



周囲が見ている前で堂々とキスつきのプロポーズをした沢田に、押しが弱い炎真が負けて……という何とも呆気ない結末に終わった。どうか笑わないで頂きたい。
語り部たる私は今にも涙が出そうなのだが。
納得がいかない者達も数名いたが、それぞれの守護者達に抑えられて引き下がる羽目になったのは哀れというべきだろう。



さて、そんな大迷惑な騒動も一段落し、月日は流れて平穏を取り戻したかに見えたのだが……。
些細な事を引き金に、マフィア界の珍事件が幕を上げることになろうとは――嗚呼、誰が予想できただろうか。




















――それは、シモンファミリーのアジトから鳴り響いた一通の電話から始まった。
部屋で瞑想をしていた沼の守護者――Shitt-p!は目を開き、素早く移動すると執務室に入って電話を取った。
炎真は休憩中のため、この部屋にはいない。


「獄寺君!」

「うおっ、何でオレだってわかったんだ!?」

「私、獄寺君のことなら何でもわかるもん」


Shitt-p!は笑って答えたが、彼女の発言はあながち間違いではない。
そもそも、彼女が電話に出ることなど滅多にないのだ。
ましてや瞑想を中断して執務室に来るなど、普段の彼女ならば有り得ない。
それをさせたのは、電話の相手が嵐の守護者――獄寺隼人だと確信を以て察知したからだ。


「エンマに用事?」

「あ、あぁ……今、いねえのか?」

「今休憩中だから、もう暫くしたら帰ってくると思うけど。伝言があるなら私が聞くよ」

「……そう、か。じゃあ古里に……あっ、じゅっ、すみ……うわああああぁぁ――っ!!」

「獄寺君!?」


けたたましい叫び声と共にガチャンと電話が切られ、Shitt-p!はただ茫然と立ち尽くしていた。
通話は切れており、機械的な電子音だけが彼女の鼓膜を揺さ振る。
――ボンゴレに敵襲が。
そう直感した時、彼女は目にも止まらぬ速さで執務室から飛び出した。
目的地は一階の食堂だ。


「ボスッ!!」

「しとぴっちゃん?」

「何だ、結局一緒に食事をしに来たのか」


鮭の塩焼きを食べていた森の守護者――青葉紅葉は、彼女の姿を見て呑気に声をかける。
炎真の皿には半熟目玉焼きとハンバーグが乗っており、どう見ても食事を楽しんでいる最中だった。
普段イタリア料理を楽しむ彼等も、たまには日本の庶民的な料理を味わうらしい。
炎真はフォークをテーブルに置くと、昔と変わらぬ柔らかい微笑みを向ける。


「しとぴっちゃんも一緒に食べる?」

「それどころじゃないのボスッ!!」

「結局どうしたというんだ?」


Shitt-p!のいつもより慌てた様子に、見かねた紅葉は炎真よりも先に問う。
食事する手は休めず、あくまで耳だけ傾けている状態だ。
彼にとって食事の時間はとても重要で、どんな邪魔が入ろうと容赦なく排除する。
ボクシングを愛する者として栄養補給は当然だ、というのが最近の彼の口癖だった。
ところが――そんな彼も、Shitt-p!の一言に思わず箸を落とす。


「ボンゴレに敵襲なのっ!!」

「なんだって!?」

「それは本当かしとぴっちゃん!!」


二人の顔色が一斉に緊迫したものへと変わる。
特に炎真はより真剣な顔つきをし、鋭い眼差しを向けて彼女に説明を求めた。


「どういうこと? まさか本部がっ!?」

「わかんない。だけど獄寺君が電話かけてきて、急に叫び声を上げたと思ったら切れちゃったの! あれは絶対誰かに襲われたんだよ!!」


早く助けに行かなきゃ的オーラを出しているShitt-p!彼女を見ながらも、炎真は冷静に考え込む。
天下のマフィアボンゴレ、しかも本部に奇襲を仕掛ける命知らずが果たして存在するだろうか。
それに、ボンゴレの守護者達に危害を加えられるようなファミリーがいるとも思えない。
何より当代ドン・ボンゴレの怒りを買って……生きていられるわけがないのだ。
昔ならば即座に駆け出した炎真だが、十年経った今では物事をしっかりと考える力が身についていた。


「ボス……」


Shitt-p!の表情はだんだんと陰り、悲しそうに瞳を潤ませる。
単純馬鹿で熱血タイプの紅葉は立ち上がり、今にも泣きそうな彼女の手を堅く握り締めた。


「大丈夫だしとぴっちゃん! 僕が一緒に行こう!」
「紅葉……」

「うーん……」

「お前らしくないぞ炎真ッ! 結局仲間の危機だろうがっ!!」


大声で怒鳴り始めた紅葉に、炎真はどうしたものかと頭を抱える。
ボンゴレの皆が心配だという気持ちは勿論ある。
だが彼の中には何か違和感が生じていた。
全てを見透かす超直感なんて便利なものはないが、それでも何かが警告を発していたのだ。
煮え切らない炎真に苛立ち、紅葉はShitt-p!の手を放すとガタンと立ち上がる。
そのまま走り出そうとすれば、ドアの前に立っていた人物に足を止めた。


「……炎真」

「アーデル?」


炎真はドアの方へと振り向き、視界に入った人物の名を呼ぶ。
――鈴木アーデルハイト。
シモン氷河の守護者であり、炎真の右腕ともいえる存在だ。
心なしか、彼女の顔は少しやつれて見える。
げんなりしている……と表現しても過言ではない。


「どうかしたの? アーデル?」


何か大変な任務でもあっただろうかと思いながら、炎真は訊ねた。
不思議そうな顔をしていた様が、青ざめるのはほんの一瞬で。


「ボンゴレがッ!」

「っ!?」

「あっ、ボスッ!」


アーデルハイトの一言を引き金に、炎真は血相を変えて食堂から飛び出した。
その後に紅葉とShitt-p!も続き、彼女は一人その場に取り残される。


「おいっ、お前たちっ……」


瞬く間に駆けて行った仲間を見遣り、何が起こったのかとアーデルハイトは首を傾げた。
自分の一言が、これから始まる悲劇(喜劇?)の幕を上げたとも知らずに。
戻ってこない三人に溜息を吐き、彼女は他の守護者達にもメールで連絡を入れる。
件名は緊急連絡、内容は――全員ボンゴレ本部に集合。
一斉送信すると、アーデルハイトもまた炎真達を追い掛け、ボンゴレ本部へと向かった。
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