賭けに負けたのは君だから 炎綱10年後


フリリク→日記にある『失われた、それでも残せるならば』の続編です。一応……。鈍い炎真と頑張る綱とのことでしたので、拙い知恵を振り絞ってそれらしくしてみました。因みに管理人はポーカーを知らないので、対戦内容を詳しく書いてません(威張るな努力しろ)

まあともかく、リクエストありがとうございました。








★★★★★★★★★★★


「ロイヤルストレートフラッシュ!」

「勝てるわけないってぇ……」


手持ちの札を出して見せる沢田に、炎真は額を押さえながら弱音を吐く。
テーブルに出された5枚のカードはスペードの、A、K、Q、J、10で構成されていた。
対する炎真の札は、スペード7、ハート7、ダイヤモンド7、クラブ7、ハート4で構成されたフォーカードだ。


「ポーカーでツナ君に勝つなんて無理だよ〜」


炎真は持っていた札を投げ捨て、ソファーに深く腰掛ける。
慣れない遊戯に神経を酷使したのか、表情には疲れの色が見えている。
これで10戦10敗という、嬉しくない成績を残す結果となってしまった。


「ちゃんとハンデはあげてるでしょ?」

「獄寺さんの指導と超直感が合わさったら、僕なんかじゃ絶対に勝てないから」


投げ遣りに言う炎真だったが、それは無理もないことだった。
沢田がポーカーのルールを知ったのは3ヵ月前――スパルタな家庭教師の一言が、引き金。





『おい、ダメツナ。マフィアの頂点に立つドン・ボンゴレが、ポーカーぐれえ余裕にできねえたあどういうわけだ?』



お気に入りの愛銃の銃口を沢田に突きつけ、家庭教師は歪に笑う。
しかし、獲物を睨み殺すような目は笑っていない。


――数日前に招かれた夕食の席で、相手のファミリーのドンが余興に誘ったのがポーカーだった。
この日は守護者の誰も手が空いておらず、家庭教師自らが護衛に赴いたのだ。
沢田は、ポーカーを知らないので……と丁重に断ったが、相手の優雅な物腰と諭すような口調に負けて何戦か交えた。
結果は――家庭教師が頭を抱えたくなるほどの惨敗。
未経験と呑み込みの遅さには、相手のドンも顔を引きつらせて苦笑していた。
そうして地獄の時間が終わり、お暇しようと立ち上がったドン・ボンゴレに向けて……。



『多少の遊戯は勉強なさった方が良いですよ。この世界は賭け事もまた必要な時がありますから』



と、爆弾のような一言を落としたのだった。
帰宅後、家庭教師にそれはもうみっちりと説教された沢田は、嫌々ながらもポーカーの特訓を始めることとなった。
幸い、優秀な教師として嵐の守護者がおり、命懸けのスパルタ修業をこなしていったのだ。
修業の終了は、教師である嵐に勝利すること。
手を抜けば2人共罰を受けるため、嵐は「すみません10代目!」と叫びながら一切の手加減無く本気で仕掛けてきた。
彼としては、自分の失態に主を巻き込むわけにはいかない……だったのだろう。
例え勝っても、負けた主に想像を絶する罰が降り掛かるなどとは気づくこともなく。
そして――家庭教師の肩書きを持つ死神が見守る中、1ヵ月後の死闘を見事沢田は制した。
たかがポーカー、されどポーカー。
少なくとも、沢田にとっては寿命が延びた瞬間だった。





「そりゃ……命懸けだったからね」


悪夢のような修業の日々を振り返り、沢田は嘆息する。
役を中々覚えられず食事を抜かれたり、実践でミスを連発して良い札を捨てれば背後から銃弾が飛んでくる。
その場合、第2の被害者が出る可能性もあるのだが……家庭教師は全くお構いなしだった。
犠牲となる相手も「10代目のためならば!」と喜んで的になるだろう。
そういう性質なのだ、昔から。


「ね、賭けの内容は覚えてる?」


回想から意識を戻し、沢田はけろりとした顔で悪戯っぽく問い掛ける。
ロイヤルストレートフラッシュを構成しているカード達を、扇のようにして。


「覚えてるよ。負け戦はしたくなかったけど」


自分の甘さに、炎真はこれでもかというほど大きな息を吐く。
炎真のポーカーレベルは大体中ぐらいだ。
だが、沢田と競えば高確率で敗北は決まっている。
相手はそれを知りながら、炎真がボンゴレを訪れる度にポーカーに誘うのだ。
今日もまた、仕事を終えて即座に帰ろうとするのを沢田に呼び止められた。
断る無視するという手段もできなくはないのだが……数時間前の会話を思い出し、炎真はズキズキと痛む頭を押さえる。





『仕事が終わったらすぐ戻るようにアーデルに言われてるから帰らないと』

『ふーん。24にもなって、まーだアーデルが怖いんだ』

『ツナく『意気地なしだよねぇ、炎真君。昔と全然変わってない』


挑発するような非難に、温厚な炎真の機嫌は少しずつ悪くなる。
けれど、ブチギレ逆ギレするのも、相手の方が何百倍も早くて――。



『もうっ、炎真君なんてアーデルと結婚しちゃえばいいんだよ!』



こうなると、もはや折れる以外にないのが炎真の悩みの種だった。
以前それでも口論を続けた時、沢田は窓から突然飛び出して暫く帰ってこなかった。
取り残された炎真だったが、一時間後にポケットに入れていた携帯が鳴った。
相手は――加藤ジュリー、シモンの守護者の一人だ。
炎真は携帯を耳に宛てたが、聞こえてきた会話に耳を疑った。



『俺と炎真君の邪魔しないでよ!』

『そんなことを言うためだけにわざわざシモンに来るなッ!』

『アーデルばっかり独り占めにしてずるいっ! この前の墓参りの時だってすぐに炎真君呼びつけてさ。いいっ、炎真君は俺のなんだからッ!!』

『さっさと帰れッ!!』



『……う、そ』


呆れや戸惑いなどとっくに通り越したのだろう。
普段は優しく思いやりのある沢田が、こんな行動に出るなんて……炎真には全く予想外のことだった。





(あれからツナ君には逆らえないんだよなぁ)



炎真は心中で呟く。
下手にリミッターを外して刺激すれば、絶対にこの前の再現がなされるだろう。
否、アレ以上かもしれない。
それならば負け戦だとわかっていても、受けて相手をした方が得策に思えた。
例え、初めての賭け事つきだったとしても。
何より、我儘で手が焼ける大きな子供を嫌いにはなれない自分がいた。
その理由は、炎真自身にもよくわからない――言葉にできない、けれど。


「ふふっ、今日もまた完全勝利〜」

「だからやりたくなかったのに。十戦全部ロイヤルで勝つなんて……普通じゃ有り得ないよ」


炎真は恨み言のように物々言いながら、スーツのポケットの中で何度かバイブ音を響かせていた携帯を取り出す。
中を開けば、20件近くの不在着信に頭を抱えて。
説明するまででもないが、これらは全てアーデルハイトからだ。
炎真がボンゴレに来てから、既に5時間が経過している。
彼女が痺れを切らすのは無理もない。


「はぁ……」

「アーデルから?」

「わかってて聞いてるよね、ツナ君」

「あははっ!」


悪怯れることなく、愉しそうに笑う。
それに炎真は疲れが倍増するのを感じたが、敢えて深く突っ込むことは止めた。
今はとりあえず賭けを優先すべきだ。
《負けた方が、勝った方の願いを聞く》なんて、ベタすぎる賭け事を。


「で、何が望み?」

「何でもいいの?」

「僕にできることならね」


さっさと終わらせて帰りたい……が炎真の切なる本音だった。
きっと彼女の長い説教が待っているだろう。
想像して、さらに頭が痛くなるのを感じた。
しかし沢田は何も気にせず、じゃあ……と続ける。


「目、瞑って?」

「え?」

「いいから。早く目閉じてよ」


催促するように唇を尖らせる様に、炎真は慌ててきつく目を閉じる。
くすくすと可笑しそうに笑う声が響いた後、相手がソファから立ち上がったような音がした。
――唇には、生暖かい感触がもたらされて。


「え……?」


驚いて見開いた深紅の瞳には、くりくりとした甘い琥珀が映る。
ふっくらとした柔らかな赤い唇が、そっと賭け事の魔法を落とせば――。



「――俺と付き合ってよ、ね?」


「……っ」



どういう意味かを問い質すほど鈍いわけでもなかった。
炎真は不意打ちを食らったように、顔を真っ赤にしながらも口を動かして。
決して音にはならないソレに、純粋無垢な策略者は無邪気な笑みを返した。
















fin

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