懺悔せし魂の、業深きは戯れに 雲綱前提、綱吉+骸で10年後 前世ネタ絡み?



愛して、愛されて、その繰り返し。
どうせ最期には殺すのに、殺さなければならないのに。
何故愛して愛されてしまうんだろう。
まるで互いの心がソレを望んでいるよう。
なら、結ばれない形こそが二人の幸せ?



「バッカじゃないんですか」
「ひどっ、普通そんな風に言う?」
「馬鹿を馬鹿と言って何が悪いんですか。無駄なこと考えてる暇があったら仕事しなさい仕事を」


骸は綱吉の思考を一蹴し、書類の山をデスクに叩きつけるようにして置く。
思考といったが、実際には綱吉自身が似たようなことを口にしている。
決して読心術という高度なモノではない。
骸は取りつく島もないといった状態で、一枚の書類を綱吉の眼前に突きつけている。
さっさとサインしろ、と呆れた目は要求していた。
対する綱吉は億劫げに目を通しては、心底嫌そうな表情だ。
否、表情だけならまだ許せる。
許容範囲内であるし、ソレさえ気になるとなったらとてもこの青年とは付き合っていけない。
骸を含め、守護者達の中では既に暗黙の了解と化しているのだ。
ただ一つ、重大な問題は……。


「こらっ!!」


グローブを取り出そうとした綱吉の手を掴み、骸は叱咤する。
そう、この青年――沢田綱吉の最も許容しがたい悪癖は此処にある。
いつの頃からか『面倒になったらみんな燃やし尽くしちゃえばいいよね!』といった恐ろしく傍迷惑な主義を掲げるようになったのだ。
その前科は様々で、最重要書類を始め、敵対するファミリーまでを完膚無きまでに焼き尽くす。
幸い無関係な一般市民までには被害が及んではいないが、昔の脆弱さは疾うに消え失せてしまっていた。
影響を与えた対象に問題があった、と言っても過言ではあるまい。
厄介なことに、その対象となる人物は、気に入らないことがあるとすぐに実力行使に訴えるのだ。
イタリアンマフィア、ボンゴレファミリー。
そのボスを護る六人の守護者の中で、彼の実力はズバ抜けている。
成長速度も著く速く、彼一人で百の敵対ファミリーは壊滅できるだろう。
尤も、その評価は霧の守護者である骸にも言えることだが。


さて、本題に戻ろう。
この規格外の対象は、ボンゴレボスである沢田綱吉に一種の憧憬を与えた。
彼もまた実力は申し分ないのだが、その力を扱う心がまだ未熟。
些細なことに心を惑わされる彼にとって、対象の何にも縛られない自由な性質は尊敬に値する。
元から、皆を護るための力が欲しいと、常に切願している綱吉のこと。
故に傾倒も早く、現在の悪癖が成り立ったわけだ。


「いーじゃん燃やしたって」
「馬鹿言わないでください。この書類何枚目だと思ってるんですか」
「うーん、獄寺くんの疲労状態から想像するに十枚目!」
「ご名答。って、クイズじゃないんですから真面目にやりなさい! たかだかサインするだけでしょう」


骸は呆れ返りながら、空いている手で机に置いた書類を指差す。
位置は署名の空欄。
此処にボスの名を書くだけという作業を、何故か綱吉は頑なに拒んでいるのだ。
因みに右腕である嵐の守護者が、同じ書類をもう十枚は作成している。
燃やされる度に首を傾げていたが、彼は敢えて問う真似はしなかった。
疑問に思いこそすれ、非難するなど考えられないのだろう。
右腕として、彼は忠実だ。
よく嫌にならないものだと、骸は哀れみで感心する。


「……だって、何か嫌な予感がするんだもん」
「は?」
「だーかーらー、その書類にサインしたら悪いことが起きそうなんだってば」
「例えば?」
「……雲雀さんを殺してしまう、とか……痛ッ!」


理解不能な言い訳を吐き出す綱吉の頭を、骸は遠慮なく拳で叩く。


「痛いー!」
「君はまだそんな妄想を「――輪廻を信じるくせに、信じないんだ?」


綱吉の寂しげな視線と投げられた問いに、骸は一瞬言葉が詰まった。
されど本当に一瞬のこと。
何が輪廻ですか、とサインを急かす。
この書類にそんな人の死を左右するような内容があるとは思えないからだ。
ただの、予算報告書に。


「何で任務の予算報告書にサインしたぐらいで彼が死ぬんですか。君の超直感なら余りにも突飛すぎます。納得のいく説明をして頂かないと」
「……いいよ、もう。そういえば前もそうだった。誰も信じてくれなくて、結局、オレはあの人を殺す羽目になったんだ」


綱吉は観念し、空いている手でペンを持てばさらさらと名前を記していく。
先程までとは打って変わり、躊躇い等欠片も見えない。
書類一枚で大袈裟な、と骸は思った。
思った、はずだった。





――最後の漢字を書き終えた時、書類に浮かび上がった死神の姿を見るまでは。




「っ!?」


見えたモノにひどく驚き、骸は掴んでいた手を放してしまう。
目を凝らして書類を見つめるものの、其処には既に何もない。
ただ無機質な文字の羅列、そして最後に承諾を意味する綱吉のサインがあるだけ。
しかしソレは、ふっと気を抜くと血文字にも見えて視界に訴えてきた。
骸はひどい胸騒ぎがして、書類を掴むとクシャクシャに丸めて床に叩きつける。
苦労して漸くサインさせた、特に重要とも思えない書類を。
その様を眺めていた綱吉は、机にペンを置いて俯く。
見えない表情は、陰だけを纏い。





「――不安定だった均衡は、崩れた。もう、転がるしかない」





諦観に支配された予言だけが、重苦しい空気の中響き渡った――。


















―――――――――――





「――だから、言ったのに」


また繰り返すだけだった、と綱吉は自らが作り出した焼け野原を眺める。
距離を置き、骸は彼の背後から茫然と現状を目の当たりにした。



――これは、何だ?



――どうして、何が、こうなった?



綱吉は掌に残っていた灰を握り締め、手を開くと風に流す。


「……あなたは、自由が似合う」


戯れに見せ、真実別離を惜しみ嘆き。



――あの日、綱吉がサインした何の変哲もない書類。
任務の、予算報告書。
その程度でしかなかった書類は、綱吉の手元を離れた時には既に存在を作り替えられていた。
――同盟ファミリーを援護に含めた、ボンゴレファミリー“雲の守護者”抹殺指令。
ソレに相応しく科せられたのは、ボンゴレの傘下にある数多の同盟ファミリーの惨殺という、罪状。


何の前触れもなく、雲の意図さえ知らぬ儘に、誰も何も疑問を持たぬ儘に、輪廻の殺戮は始まった。
一体何が原因か。
根本は、一切不明。


「だから言ったじゃないか。オレ達は殺し合う運命なんだって。どんなに愛したって、叶わないんだって」


……骸は否定できなかった。
彼だけは、この一連の流れに組み込まれなかったから。
目まぐるしく展開していく狂気を、ただ蒼緋に映していたから。
どちらの立場にも、立てずに。
それでも彼は今でも信じられなかった。
何が起きたのか、その瞳に映しながら、認められなかった。
綱吉はボンゴレ本部があった地に背を向け、顔を上げる。
琥珀と蒼緋が、静かにぶつかり合った。


「ボンゴ「もう、此処には沢田綱吉しかいないよ」
「……」
「何度繰り返しても失うんだ。オレが殺される時もあったけど、大抵は殺す側かな。もう何百回……この手をあの人の血で染めたらいいんだろう。どれだけの生で、あの人の亡骸を抱いたら、終わるんだろう……」


乞うように問われる痛みにに、されど骸が応えられるはずもなく。
自然と視線を背ければ、綱吉は壊れそうな笑みを浮かべた。





「……あの人のいないセカイでなんて、生きていけないよ……」





――輪廻へと戻る、原初の銃声。





「綱吉くんっ!?」



周囲に哀しく響き渡った銃声と同時に、綱吉の身体は崩れ落ちる。
こめかみから飛び散った血は、空気を濡らし。
地面に倒れそうになる彼を抱き留めた骸は、その瞬間……観て、しまった。



「君は……また、また繰り返すんですかッ!!」





……届かぬ悲鳴が、雲一つない空を突き破った。

























ただ一度の過ち、病死した恋人を追って、自ら命を断った――罪。
二人を永劫に縛りつけるはただソレだけ。





ありふれた珍しくもない事象の中、彼等が選ばれたのは、神様の気紛れという以外ないのでしょう。











――輪廻はまた、悲劇を繰り返す。




























fin



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