喪失の影に、潜みし陰は 髑→骸綱→? 10年後で、髑髏+綱吉


CPの?は多分簡単に誰かわかるかと。
一部がまどマギの台詞に少し似てしまったのは偶然です。


























★★★★★★★★★★★





――ケタケタと嗤う破滅の音に、どれだけの声が死んでいった?





「やっぱり綺麗だね」


「……」


数多の標的を宙で氷漬けにして、その塊を三叉槍で粉々に砕く。
最初は幻覚が上手く展開できなかったけれど、数をこなせば実力もつくというもので。
降り注ぐ小さな欠片に潰えていく命を見つめながら、彼は恍惚と呟いた。


彼――たった一人の、私の主人。
あの方を亡くしてから、もう数年。
私はまた、新たな主人を持った。
けれど――彼は託されたもの。
絶対の主人から、自分亡き後護ってほしい――と。





『彼はひどく弱く不安定です。何があっても、決して離れてはいけませんよ』



『はい、骸様』





マスターが託した、ドールへの命令。
慕情は葬られる、主従の果てに。
私は誰よりも骸様を愛していた。
人形という枠を超えて、誰よりも何よりもあの方を愛していた。
故に忠実に護り続ける、遺された形見の命令を。



(私は骸様が好き。でも骸様が愛しているのはボス。ならば私は護るだけ)



例え、気狂いの果てに壊れてしまおうとも。
誓いは永遠に、命令は絶対に。



「ボス、次は何がお望み?」


「うーん、飽きたから帰る。雑魚相手だと正直萎えるし」


「同感」


さらりと返して、武器を消せば微笑む。
ボスも微笑み返して、手を差し出してくれた。
――行こう。
柔らかく発された誘いに、頷いて彼の手を握る。


ボスが昔見たボスと違ってしまっているのは、もういつからのことなんだろう。
彼の傍に居たのは、いつも骸様。
私は、二人が取り繕っているとも知らず、ただ見ていただけ。
私の知っていたボスは、昔と変わらない笑顔のまま、優しくてあったかくて。
慈愛に溢れた、本当にマフィアらしくない人だった。
この世界には不似合い過ぎるぐらい。


だけど、骸様がいなくなってから知ってしまった。
ボスはもう昔のボスじゃない。
あの方は、たった一人で、彼の緩やかな崩壊を見届けていた。
抑え込めない闇を見せるのは、骸様だけだった。
故に周りには仮面を被っていられた。
悲しすぎるほどに、優しく脆い人だった。



「クロームは強くなったよね。今なら骸にも勝てるんじゃない?」


「私と骸様が戦うなんてありえない」


「――そっか」



少しだけ、寂しそうに笑って歩きだす。
どう答えれば良かったんだろう。
ボスは時々、反応に困る言葉を投げてくる。
骸様なら的確な答えを返せたんだろうか。
ちょっぴり、切ない。


それでも、わかっていることがある。
短い時を骸様の代わりに共に過ごして、気づいたことが。


――ボスには手に入れたい何かがある。
琥珀の瞳には、彼にしか見えない何かが映っている。


……骸様、ボスの望みは一体何なのですか?
それを叶える術は者は、このセカイに存在しているのですか?





『――クローム』



いつかの、声が聞こえた。



『――彼の望みを叶える術は者は、疾うに喪っているんですよ』





あれは、そう。
ふと垣間見た、笑顔の裏の、冷たい、能面のような、表情(かお)
からっぽに近くて、悲しいほど痛くて、まるで何かに似ているようで。
そのことを骸様に訊ねたら、言われたこと。
望みを叶える術は者は、ない。





『――ボスの望みは何ですか?』



『哀れなほど純粋ですよ。彼は無欲で、けれどその望みは彼そのものを大罪に仕立てあげる。何より――戒めの血が、ソレを赦しはしない』





だから奪われたのだ、と骸様は語っていた。
結局ソレが何なのか、私には想像がつかないままだけれど。



「ねえ、クローム」


「何?」


立ち止まったボスに合わせて、私も歩みを止める。
一歩だけ後ろにいる私には、彼の表情を伺うことはできない。
彼も、振り向くことはなかった。



「このままさ、二人で何処か行っちゃいたいね。ボンゴレも何もかも――ぜーんぶ投げ捨ててさ」



魅力的な、けれど罪深。
彼がボンゴレのボスであることは決められていて。
その血を継ぐ者でなければ不可能で。
それなのに彼が全てを投げ出してしまったら、王国は見る影さえなく亡んでしまう。
王が不在の国を狙わない他国などいない。



「――あの人とだったら、叶うと信じていたのに」


「ボス?」



空を仰ぐボスは、ぽっかりと浮かぶ白を見つめていた。
私が呼び掛けても何の反応も見せない。
“あの人”って誰のことかしら?
骸様でないことは確か。
だってボスは骸様のことをそう呼んだりしない。
何より……こんな哀しげに切なげに、想ったりしない。



「疲れたよね。皆心配すると悪いし、早く戻ろうか」





繋いだ手を握り直して、彼は振り返る。
どこまでも取り繕った、不自然すぎる笑みが、其処にはあった――。
























【喪失の影に、潜みし陰は】
(あなたの仮面を壊せる人を、私は知らない)



























fin


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