我儘な望み、残酷な仕打ち 2


「墓守……?」


雲雀は話の要点が掴めずに問い返す。目の前の青年は確かに沢田綱吉と瓜二つだ。雲雀が愛した、最も憎んだ―――……雲よりも自由気儘な大空に…。

その事実は雲雀の心に刻まれた癒えぬ傷を更に抉り、血を流させる代わりに益々憎悪を募らせていく。


「……説明しな。返答次第では棺を壊す」
「えっ! そ、それはダメです! 俺は人間離れした最悪最狂野性の獣王に近い貴方と戦いたくありません!」
「……良い度胸だね」


青年の抗議を聞いた雲雀の目は笑っておらず、口端だけを上げてトンファーを握り締めた。それを察した青年は一歩下がり、躊躇いながらもグローブを嵌めた両手からゆらめく橙色の炎を出現させる。


正統な後継者である沢田綱吉にしか生み出せない炎……それは大空を掲げる者の炎。
―――……雲雀の記憶の中で、一番憎むべき色……殺したい――…いろ。もう存在しない、存在してはならない…哀しみの色。


「…どういうこと?」


雲雀の声が一段と低くなり、静寂を纏う空気を震わす。肌を突き刺す戦慄に、青年はそれでも怯まずただ真実を告げる。造り主に命じられていたことを。


「俺はこの棺を守るため、X世様の細胞の一部から造られました。来たるべき日まで、墓守として存在します。」
「来たるべき日……それは、あの忌まわしい計画かい?」
「はい。若きX世様が此処に参られるまで俺は存在し続けます。棺に触れる敵を排除して。全てはX世様の御意思……っぅ!」


青年の説明は最後まで言葉にならず、頬には雲雀がトンファーで思い切り殴った際の痣が出来ていた。
雲雀の突然の行動に青年は何度か目を瞬かせ、顔色は僅かに青ざめていた。そんな仕草も雲雀の中では、嫌なぐらい沢田綱吉と重なり不愉快を覚える。


「な、なに「戯言はいい加減にしな、沢田綱吉」


雲雀の声色には紛れの無い殺意が含まれ、既に怒りは頂点に達していた。―――…これがまだボンゴレの上層部が勝手に造り上げた物なら、雲雀はギリギリで許せたのだ。本当にギリギリ、少しでも力を入れたら切れる細い糸並みに。

そんな雲雀の怒りを最大限まで引き上げたのは、これが“最愛且つ憎みし者”による愚劣な行為だという事実だった。


「君は……いつだって勝手過ぎる…っ!」


何故彼ばかり犠牲に、何故彼は自己犠牲ばかり選ぶ?何のために、あの群れる草食動物達は、孤高の僕は――――…彼の“守護者”になった?意味を、何一つ意味を持たないじゃないか!君は勝手に死んで、死してからもこんな形で戦闘を続け――――嗚呼どこまでも傲慢で愚かな王者とは彼のことだ。


「…雲の……いえ、雲雀さん……」
「君にそう呼ばれる筋合いは無い」


雲雀は青年の呼び掛けを冷たく払い除けた。どんなに愛しい人の姿を、想い人の姿をしていても―――雲雀にはわかってしまう、偽者だと。―――綱吉だけが持ち得る温かな心を、青年は持っていない。無機質な眼差しで見遣る青年を……雲雀は綱吉の姿と重ねることができない。……否、してはならないのだ。それは冒涜、愛したことへの冒涜に他ならない。


「………」
「―――何で君は僕の前に現われた?」


黙り込んでしまった青年を前にして、雲雀は一つの疑問を投げる。自分を守護者だと知っているなら、わざわざ危険を犯して姿を曝すような真似をする必要は無かったはずだ。
―――だが同時に、この質問は愚問でしかない。答えを…もう既に雲雀は受け取っている、本物の綱吉からずっと昔に。

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