我儘な望み、残酷な仕打ち 1 雲綱10年後死ネタ

死者に安息を、死者に冒涜を。―――…与えられるのは必ずしも、自分が望むモノとは限らない…。






イタリアンマフィアにおける最強ファミリー、其の名をボンゴレファミリー。その統一はボンゴレX世を始めとする、六人の守護者達によって成されていた。

だが、それも数日前までの話。ボンゴレX世、沢田綱吉が銃殺された今では…容易く秩序が崩壊し、ボンゴレ内には不穏な動きも見え隠れし始めた。

ボンゴレ上層部の中には、綱吉を銃殺した最大の敵ミルフィオーレファミリーに寝返ろうと企む者が数人いたとの報告がある。我が身可愛さ―――…恥知らずの愚か者。それらの粛清は、遺された守護者達の業務内容に加算された。


「厄介な仕事を残して逝ってくれたよね、君」



鬱蒼とした草むらの中、目立たぬよう置かれた漆黒の棺の前で跪き……同じく漆黒をその身に纏う青年が触れる。
その存在を確かめるように、今一度認識させるように。


「君は馬鹿だよ。僕を引き摺り込んで勝手に自分だけ死ぬなんて」


青年は苛立ちを指先に込め、棺に強く爪を立てる。その力は爪に罅を入れさせ、滲み出た青年の血が漆黒へと呑み込まれた。青年は悲痛な面持ちで棺に向かって恨みを吐き出す。


「ど、う、し……てっ…!」



何故?何故君は僕を置いて世界から消えた?独りで生きてきた僕の中に入り込んで無邪気な笑顔でこの心を奪って、どうして君は独りで消えてしまった……っ!今でも愛してるのに愛してるのに―――…どうして独りで…っ!!!



それは棺の中で眠る青年…沢田綱吉の罪。愚かな罪人は遺して逝った、愛する者を愛した者を。…それを許せないのは、棺に慟哭を堕とす孤高の浮雲……雲の守護者、雲雀恭弥。


「僕は君を許さない! 絶対に許さない!」


許すものか許すものか。勝手に僕を置いて逝ったあの子を―――…絶対に、絶対に許すものか―――っ!



「…あの……」
「!」


背後から突然聞こえた声に反応し、雲雀は瞬時にトンファーを装着した。そのまま後ろを振り向けば、立ち尽くしていた人影の脇腹に一気に衝撃を叩き込む。


「がっ―――ッ!」
「君……!」


雲雀は声の主の顔を認識すると目を見開いた。声の主は脇腹を押さえて蹲ったが、雲雀は目の前の光景が信じられずそれ以上言葉を失っている。


ありえない、ありえるはずが……ない。これは夢だ幻だ幻覚だ。彼は、彼はもう――…自分の手の届かない場所にいるのだから。



「っ、痛い…で、すよ……」


驚愕を隠し切れない雲雀を涙目に見遣るのは、見慣れた淡い茶色の双眸。蜂蜜色の癖毛ある髪に隠れたその幼い顔立ちは……


「沢田綱吉……」


ありえない、そう何度自分に言い聞かせればいい?この世にいない人間の名を呟くなんて……馬鹿馬鹿しい滑稽だ。

雲雀は己の余りの愚かさに自嘲した。だが青年は起き上がると、生前の綱吉とそっくりな笑みを浮かべて死刑宣告とも呼べる挨拶を口にする。


「あ…初めまして、雲の守護者様。俺は此処の墓守、NO X005。唯一成功したX世様のクローンです」
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