捕えたはずが囚われて 雲綱 10年後


増える傷、癒えない傷、癒える前から新たに傷一つ、彼の小さな身体に刻まれる―――嗚呼、不愉快で忌々しい。



そう思い始めたのはいつからだったか――雲雀恭弥はソファに座っている沢田綱吉の右腕を包帯で巻きながら考えた。

任務先で不慮の事故を負ったと聞いていたが、明らかに戦闘で負った傷であることは見て取れた。転落による擦り傷や打ち身だったら、肉が見える程皮膚が裂けたりはしない。


「君は強いくせに弱い」
「俺は平和主義者なんですよ。貴方と違って」
「忌々しいね、偽善面聖人面した君の仮面は。それに気付かない馬鹿な取り巻き達も」


――――死んでしまえばいい、君が護る価値など微塵もない。
それを告げる代わりに、雲雀は包帯を巻き終えると綱吉を見据え、
……嗤って告げる。


「君が自分の意志で、その身体に傷をつけることは構わない。だけど君の意志じゃない傷は――――許さない」
「身勝手ですねえ。俺に怪我をするなって言うんですか?」
「不愉快なだけだよ、事故ぐらいで傷を負うなんて。君は草食動物はやめたんでしょう?」


草食動物を雲雀は嫌う、綱吉は雲雀が嫌う存在になりたくなかったから―――雲雀と同等、否、雲雀以上の強さを欲した。
……雲雀はそれを知った上で嗤っているのだ。


「……はい、肝に銘じておきますよ」
「脳内に刻みな。君はすぐに忘れるから」
「貴方に捧げる愛は忘れません」
「陳腐な愛を口にするぐらいなら僕が言ったことを一つ残らず刻んでよ。脳に、心に、君という……沢田綱吉という存在全てに」
「ふふっ、それも一種の快楽的行為でしょうね。貴方は言葉だけで俺を犯せるんですから」


身体を重ねなくとも、それ以上の快楽を、至高の絶頂を迎えることができると―――雲雀が綱吉に教えたから、綱吉は雲雀に従うと決めた。


虚飾装飾の愛言葉より、身を震撼させるほどの殺意を情欲に委ね綱吉を堕とす雲雀だけを―――…綱吉は欲してしまった。



「俺は貴方だけを愛してますよ」
「軽々しく嘘を吐ける君を何度咬み殺したいと思ったことか」
「それは残念です、ね」




どこまで堕としても堕としても、完全には堕ち切らない空人(そらびと)。
嗚呼―――いっそ首輪で繋いで愛欲の檻に閉じ込めてしまおうか。






fin
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